2010年12月5日日曜日

侵入思考,スキーマ,思考コントロール方略の関係

先日,今後の研究の枠組みとをある方と話し合っていた折に,
有益な質問がもらえたおかげで,有益な答えを引き出してもらえました。

思考コントロール方略を研究する人間は,思考コントロール方略が
侵入思考を強めたり弱めたりするという立場を取ります。
つまり,思考コントロール方略は侵入思考に影響を与える要因,
もっとざっくり言えば侵入思考に対する原因系の変数だと考えるわけです。
そこでその方が質問されました。
「思考コントロール方略以外に,侵入思考の原因になるものって何ですか?」
「えーっと,えーっと」
侵入思考の原因について,従来の認知療法(Beckに発する,
第二世代の認知療法ですな)は,スキーマであると考えます。
つまり,スキーマという潜在的な認知構造があって,
それが何らかのイベントによってトリガーされ,
活性化されて侵入思考がアウトプットされるという考え方です。
(これについては,丹野先生の解説が分かりやすいので,
そちらを参照されてください)
ここまで答えたところで,「じゃあ,思考コントロール方略とスキーマとは
どのような関係にあるのだ?」という問いが私の頭を過ぎりました。
思考コントロール方略は,スキーマが活性化されてアウトプットされた
侵入思考に対して加えられる処理,あるいは操作であると言えるのです。
つまり,両者は役割が異なります。
まとめれば,
「event→スキーマ→侵入思考→思考コントロール方略→侵入思考」
というプロセスを考えることができるでしょう。
これなら,第二世代認知療法の知見と整合的で,それにつなげながら
議論していくことができます。
もうちょっと早く気がついていれば,紀要に書いたレビューに
この論点も盛り込むことができたのですが。
それから,セラピーのことを考えると,従来の認知療法っていうのは,
スキーマを活性化させて,それを修正することであると言えます。
一方,思考コントロール方略に着目したセラピーというのは,
侵入思考を強める操作を見つけ出して,それを使うのを控えてもらったり,
侵入思考を弱める操作を見つけ出して,それを使うようにしてもらったり
することであると言えるでしょう。
で,「構造を変えることと操作を変えることと,どっちが容易でしょうか?」
という問いを私の方からその方に投げかけたところ,
「操作でしょう」というお答えをもらえました。
(ここでも,まずは操作を変えて安全圏を確保しておいて,
その後で構造を変えることにゆっくり取り組めばいいのではないか,
という,両者を結びつけた議論は可能だと思います)
マインドフルネスっていうのは,思考コントロール方略に影響している
部分もあるのではないか,と思ってみたり。
今日は備忘録的にブログにまとめておいて,いずれは何かにまとめたいと
思います。

2010年11月25日木曜日

Re: 論文採択、おめでとうございます

長らくのご無沙汰でございました。

今年度の紀要に,Thought Control Questionnaireを使った研究のレビューを
執筆し,9月末に投稿していました。先日,無事に受理通知が来ました。

侵入思考が関わる障害は多岐に渡りますが。今回は不安障害とうつ病とに
限定してレビューしています。
取り上げた研究には以下のものが含まれています。
・強迫性障害における強迫観念
・PTSDにおけるフラッシュバック
・全般性不安障害における心配
・うつ病における自動思考
TCQを使った不安障害・気分障害の研究はずいぶんカバーしていると思います。
興味を持たれる方にお役に立つのではないかと考えています。
これから原稿の校正に入ります。誤字脱字や表記のゆらぎなどを見つけ出しては
修正していきます。つぶしてもつぶしてもどこかにあるので,最後まで
気を抜けません・・・。
抜き刷りが出来上がるのは年度末になってしまいますが,
ご入用の方は遠慮なくお申し出ください。
統合失調症における幻覚・妄想も侵入思考の一種と言えます。実際,幻覚や妄想
と思考コントロール方略との関連を調べた研究もいくつか行われています。
このあたりの研究については,今回は扱っていませんが,今後まとめていきたいと
考えています。
また,せっかくいろいろな論文を集めたので,メタ分析をやってみるという
方向性もないわけではないか,などとぼんやり考えています。

2010年10月1日金曜日

Chronic Pain Acceptance Questionnaireの日本語訳

以前ご紹介した,慢性疼痛に対するアクセプタンスを測定する質問紙
Chronic Pain Acceptance Questionnaireの 日本語訳を見つけました。

(認知)行動療法から学ぶ精神科臨床ケースプレゼンテーションの技術

著者の飯倉先生から頂きました。近刊です。

飯倉康郎 (認知)行動療法から学ぶ精神科臨床ケースプレゼンテーションの技術 
金剛出版 2010

私なんかにわざわざいただけるなんて・・・。ありがとうございます!!
ケースの資料をいかに準備し,まとめ,プレゼンテーションしていくか,
その手順が具体的に書かれた手引書です。
ちなみに,
実証研究の論文書きには,この本が,
実証研究の学会発表には,この本が,
役に立つ手引書です(知ってる人も多いと思うけど)。
私は折に触れて参考にしています。
この本は,私にとって,症例報告をするときに
いつも傍らに置いて,参考にする本になりそうです。
「第一部 ケースプレゼンテーションの基本」では,
 プレゼンテーションが行われる状況(臨床現場,学会発表)や,
その目的(問題の対策,新人の研修)が整理されています。
 確かに,ケースを発表する機会は何種類もあるし,
それぞれに応じて資料のまとめかたも異なると思います。
 また,公開の場でケースプレゼンテーションをするメリットが
まとめられていて,「これだけいいことがあるんだから,
がんばって準備しよう」という気分になります。
「第二部 ケースプレゼンテーションの実際」では,著者である飯倉先生が
行われた実際のケースプレゼンテーションが収録されています。
 強迫性障害に関しては,ADHDを伴う事例や統合失調症を伴う事例など,
工夫が必要な事例が報告されています。
 また,重度精神地帯の事例や認知症など,強迫性障害以外の事例も
報告されています。
 症例報告だけを読んでも面白いです。
 精神科で働く心理士にとって勉強になると思います。
 飯倉先生のケースプレゼンテーションは,学会や講演,
症例検討会で何度も拝見していますが,いつもお上手です。
切り口が面白いし,お話はすいすい頭に入ってくるように組み立てて
いらっしゃいます。
この本では,良質の実例だけでなく,どうやったらそのようにできるのか,
手続きというかノウハウを公開しておられます。
それが「第三部 Let's try  ケースプレゼンテーションを作成してみましょう」。
病歴や治療経過などの情報をワークシートの空欄に書き込みながら,
プレゼンテーションを整理していくようです。
これを使いながら,書きかけの症例報告を書き上げてみようっと。

2010年9月28日火曜日

日本心理学会第74回大会後記

日本心理学会第74回大会,参加してきました。

発表が初日の午前中だったので,前泊しました。
夕食は,高校時代の友人と,ジャンジャン横町で串揚げなど頬張りました。
初日
例年注目しているある方の発表を聞きにいって参りました。
ポスター脇でちょっと情報交換。やはり似たようなところで似たような課題を
感じているよう。
あの先生が私のポスターに来てくださいました!!
思考コントロール方略を研究する意義について,私なりの考えを説明しました。
「侵入思考とどう付き合ったらよいか」というのは,認知行動療法の介入技法の
面では提言されている(カラム法はその代表例)。
しかし,基礎理論の面で,「侵入思考とどう付き合っているか」の概念化も,
測定手法もない。つまり,理論と技法とが不一致。
そこで,思考コントロール方略について研究することは,この不一致を解消する
上で意義がある,というようなことを申し上げました。
先生は「ああ,そうだよね」と言ってくださって。
この説明の仕方はちょっといいかもしれない,と思えました。
��当日発表しました内容については,昨年度の紀要にまとめております。
興味がおありの方は,メールフォームからご連絡ください)
お隣のポスターが,その先生の学生さんだったので,そして,抑うつと自己意識
がらみの発表だったので,お話を伺いました。
少しは気の利いたコメントができたでしょうか。
それから,思ってもみなかった職域の方が私のポスターにお越しになりました。
「自分たちの職能を,職人芸で終わらせず,後代にかたちとして残すために
どうしたらいか,参考にしようと思って」と。
私の発表がお役に立つのであれば,是非ともご活用いただきたい。
発表が終わって少し気が抜けて,昼から先輩と麦のジュースで喉を潤しました。
一仕事終わると,やっぱりおいしいですねえ。
二日目
統合失調(症)のシンポを聞きに行きました。
基礎研究,アセスメント,介入などいろいろな立場の方からのご発表でした。
ひとつのテーマに対して複数のアプローチがあるからいいんだよねえ。
阪大の精神科の先生が漏らされた,心理士への不満が痛かったです。
「患者の服薬アドヒアランスを高める介入」を心理士にやってほしい,
ということなんですね。
服薬も行動なので,その生起頻度に関わる要因を特定したり,介入したりする
ことに,行動科学の知識や手法を使えるはずです。
「臨床実践と心理学研究の対話」
松見淳子先生のお話は逐一頷けるものばかりでした。
介入の効果研究が進展する今日,心理士に必要なのは
・実験心理学の理解,アセスメントツールや統計の知識,
・介入技法の体得,英語の研究論文の読解能力,
などだと思います。
臨床現場から研究へ来られた先生のお話。自分にも似ているところがありました。
臨床の人と話すときと,研究をして論文を書くときとでは,「コトバ」の使い方
が全然違うのですよ。そこに正面から取り組んでおられて,好感が持てました。
きっと大変だと思うのですが,実のある大変さなので,ぜひ頑張ってほしい。
懇親会への移動のバスの中では,駆け出しの時からお世話になっている先生に,
私の論文についてコメントをいただけました。
お褒めのコトバとしては,
・「問題と目的」で述べているモデルは,臨床の実感と一致している。
・ポジティブな自動思考はネガティブな自動思考を抑制しないというのも,
実情に合致している。
厳しいコトバとしては,
・同一時点で収集したデータなのにパス図を描いたら因果関係に言及できるって,
どうして?
懇親会 
一度お話をうかがいたかった先生方にご挨拶。
他の方とお話していらっしゃる切れ間を狙うということで,合コンみたいだった。
興味のある先生に対しては,どういう道を辿って今日に至っておられるのかを
聞きたくなってしまう。
ある先生は,研究でお名前を拝見していたのだけれど,
大変そうな患者さんを診ておられて,ケースの話でちょっと盛り上がりました。
もっとケースの話などしたかった。またの機会を狙います。
もうお一人の先生は,医学部の中で心理学者としての地歩を築いていらっしゃる。
研究しないと賢くなれないし,研究やるには物事を手際よくこなさないと いけないし。
しかも,周囲に心理(学者)がいない状況で研究するって大変だと 思う。
��心理学者としてのアイデンティティが確認できるから,日心の大会に参加
するっておっしゃってた)
水曜日は仕事の都合で参加がかないませんでした。
認知療法学会まで行くと1週間も家を空けることになるので,憚られました。
両方参加された方もちらほらいらっしゃったようで,私も行きたかった。
来年の大会は日大,再来年は専修大だそうです。
日心の雰囲気は好きなので,毎年発表をしながら参加を続けています。
学会を運営してこられた諸先輩方,今回の大会運営をされた阪大の皆様に感謝。
学会の大会に参加すると,短期間で知識の整理ができるし,ふだんなら知り合え
ない方とも知り合えるので,密度の高い時間を過ごすことができます。
今年は,行動療法学会@名古屋に参加します。ひつまぶし食べたいー。
「臨床的なテーマに,行動科学的な手法で迫る」という考え方に同意して
いただ ける方は,拍手をお願いします。

2010年9月15日水曜日

日本心理学会第74回大会でポスター発表します。

このブログをご覧いただいている方の中には,
心理学関係の方もいらっしゃると思います。

20日(月)の午前中に,「障害・臨床」のセクションで,思考コントロール方略
に関するポスター発表をします。
不安・抑うつに対する認知的アプローチ,侵入思考,思考抑制,反すうなどを
研究していらっしゃる方に興味を持っていただけると思います。
ぜひぜひお越しください。
私と研究上の関心を同じくする人たちのポスター発表を聞きに行くのはもちろん,
まったく関係がない研究のポスター発表の中に興味をそそられるものが
ときどきあるので,ポスター会場をぶらぶらしてみたりします。
ワークショップ,小講演は認知行動療法関係と構造方程式モデリング関係の
ものに参加してみようと考えています。
日心の大会は,研究の知見にしても方法論にしても,
かなり新鮮なものが聞けるので,毎年楽しみです。
21日(火)いっぱい大会に参加して,9時半ごろに大阪を離れる予定です。
現在,ポスターを作製中です。
去年から,この本を参考にしてポスターを作るようにしています。
紙面に何でも書き込み,ごちゃごちゃさせてしまう悪い癖が私にはあるので,
ポスターをなるべく簡潔にしようとしています。
すっきりしたきれいなポスターで,かっこよく発表したいなあ。

2010年9月8日水曜日

I am pleased to inform you だそうです。

3ヵ月前に出会った,regrettablyという忌まわしき言葉。
その後,気持ちを切り替え,ジャーナルを変えて再投稿をしました。

そして,先日,その査読の結果が届きました。
今回は,楽しい昼ご飯を食べようとしているときでした。
予想より早かったので,ひょっとしてまたも忌まわしき言葉を
目にしなくてはならないのでは,などと弱気になったのですが。
I am pleased to inform you …と書いてあったのを見て救われました。
「適切な改訂を行ったら受理します」といった旨のことが書かれていました。
今は,嬉しいというより,ほっとしたという感じです。
査読者のお二人,いろいろ言ってきてます。
もちろん,きっちり直していきますよ。
「改訂した原稿を投稿しても,また査読があるので,受理を保証する
ものではありません」みたいな断り書きがしっかりしてあります。
ここでしくじったら元も子もない。
しっかし,明るい気分で改稿に取り掛かれるのはいい。
今年(今年度?)の前半は思うに任せないことがいろいろあって,
正直苦しかったのですが,腐らずにやってきてよかった。
この論文に関わって,バックアップしてくださった皆さんに感謝申し上げます。
それから,同じ時期に,近いテーマで,類似のジャーナルに投稿してこられた
先生方にも感謝したい。皆さん一筋縄ではいかない様子だったけれど,
タフに取り組んでおられる様子から,私も励まされました。
受理になる先生も出てきたようなので,私も後に続きたいものです。
そしてやっぱり,一番感謝したいのは,うちの相方です。
苦しい時にしっかり叱咤激励してくれたし,今回も喜んでくれました。
おかげで私も少しはタフになったと思う。
英文誌はどこもcompetitiveなんだと思います。
「投稿されてくる論文の数があまりに多いから,なるべく落としてほしい」
という要望が編集委員会から査読者にあるのではないだろうか。
そういった状況で論文を受理に持っていくためには,手堅くまとめられている
だけでなく,何かひとつ,光るものが必要だということを学びました。
いつも目線を高く持たないとね。
他にも,投稿したい原稿がいくつか手元にある。勢いに乗って出していこう。

2010年8月23日月曜日

うつ病を伴う強迫性障害におけるセラピーの方針

以前書いた記事の補足です。

うつ病と強迫性障害とがcomorbidしている場合,どっちから取り組むか,
注意が必要です。

ちなみに,うつ病から強迫症状が派生した場合と,強迫性障害からうつ病が
生じる場合という,2つの場合があり得ます。


うつ病から派生した強迫症状の場合。
確認強迫を例にして説明しますと,
「私は頭が悪いので,書き間違いをしているのではないかと思って…」と,
確認する理由に,自分(の能力)を卑下する雰囲気が混じります。
これに対して,うつ病から派生したのではない,通常の強迫性障害の場合だと,
確認をする理由は,他者への迷惑を危惧することです。
「もしも書き間違いをしていたら,会社に大損害を与えるので…」。
もちろん,うつ病の場合でも,こうした迷惑の雰囲気があることも
あるのですが…。
強迫症状がうつ病から派生したものである場合,うつ病が治れば,
それに伴い強迫症状もよくなります。だから,まずはうつ病のセラピーを行います。

一方,強迫性障害から派生したうつ病の場合,
OCDが悪化していくと,症状に圧迫されて生活が不便になっていきます。
例えば,外出しづらくなったり,仕事辞めないといけなかったり。
それに伴ってうつ病になっていかれます。

この場合も,最初に行うのはうつ病のセラピー。
その理由は,理論的な観点と,実際上の観点と,二つあります。

まず,理論的な観点。
抑うつ気分を伴ったままでは,不安喚起刺激に対して曝露をしても馴化が起きない。
これについてFoaがemotionalprocessing of fearという論文で理論化しています。
この論文はまた紹介したいと思います。

そして,実際上の観点。
曝露-反応妨害法は,ある程度まとまった期間,患者さんの頑張りが必要。
患者さん自身に効果が実感できるまで,ちゃんとやっても2-3ヶ月かかります。
しかし,うつ病でエネルギーがないと,これは続けられません。

病歴を取る場合には,うつ病が先か,強迫症状が先かを見極めることが重要。
私は,「何回も確認するようになったのと,気分が落ち込んで何もする気が
なくなったのと,どっちが先でしたか?」と,必ず尋ねるようにしています。

以上,うつ病と強迫性障害がcomorbidしている場合には,まずうつ病に取り組むのが定石。
それで,うつ病が治った後に強迫症状が残っていたら,それにたいしては曝露-反応妨害法を。
と私は習いました。


2010年8月22日日曜日

うつ病群を対象にしたThought Control Questionnaire(TCQ)の最近の研究

うつ病群を対象にしたThought Control Questionnaire(TCQ)の研究って,
Relnolds & Wells(1999)以来ほとんど目にしたことがなかったのですが,
最近になってひとつ出ました。

Watkins, E. R., Moulds, M. L.(2009).   Thought control strategies,
thought suppression, and rumination in depression.   International
Journal of Cognitive Therapy
, 2, 235-251.
彼らは,大うつ病性障害の患者群,大うつ病性障害から寛解した群(=かつて
大うつ病性障害だったけれど現在はそうではない),健常群(うつ病になった
ことがない)の3群で研究を行いました。

まず,3群を混みにして,TCQの5つの下位尺度の得点とBDIとの相関を
調べたところ,以下の結果が得られました。
・罰方略,心配方略がBDIと正の相関を示した。
・社会的コントロール方略,気晴らし方略がBDIと負の相関を示した。

次に,3群で,TCQの5つの下位尺度の得点を比較したところ,以下の結果が
得られました。
・心配方略の得点は,大うつ病性障害から寛解した群,健常群に比べて,
大うつ病性障害の患者群で有意に高い。
・罰尺度で,大うつ病性障害の患者群,大うつ病性障害から寛解した群,健常群
の3群で有意差が見られ,この順に得点が高かった。


こういうremitted patientの研究って,障害が治るのに伴ってどのような特徴が
消えていき,障害が治ってもどのような特徴は残存するのかを示唆してくれます。

うつ病が再発を繰り返すことを考えると,症状が消えても残存する特徴が
リスクファクターになってる可能性もあるんじゃないだろうか。
この,International Journal of Cognitive Therapy,最近立ち上がった
ジャーナルみたいです。


2010年8月21日土曜日

精神科の患者におけるThought Control Questionnaire(前編)

TCQを開発したWells & Davies(1994)の研究で,協力者は健常群でした。
今日ご紹介するのは,「臨床群ではどうなんだろう」という関心のもとに
行われた,初期の研究です。

2010年7月28日水曜日

マインドフルネスの尺度あれこれ,その名称と書誌情報

以前のエントリーで触れました,マインドフルネスの様々な尺度について,
その名称と書誌情報とを紹介しておきます。

・Mindful Attention Awareness Scale(MAAS)
Brown, K. W., & Ryan, R. M. (2003). The benefits of being present:
Mindfulness and its role in psychological well-being. Journal of
Personality and Social Psychology, 84(4), 822-848.
 www.ppc.sas.upenn.edu/mindfulnessscale.pdf
で,英語版の実物を見ることができます。
・Kentucky Inventory of Mindfulness Skills(KIMS)
Baer, R. a., Smith, G. T., & Allen, K. B. (2004). Assessment of
mindfulness by self-report: the Kentucky inventory of mindfulness skills.
Assessment, 11(3), 191-206.
・Toronto Mindfulness Scale(TMS)
Lau, M. A., Bishop, S. R., Buis, T., Anderson, N. D., Carlson, L.,
Carmody, J., et al. (2006). The Toronto Mindfulness Scale : Development
and Validation. Online, 62(12), 1445-1467.
・Cognitive and Affective Mindfulness Scale-Revised (CAMS-R)
Feldman, G., Hayes, A., Kumar, S., Greeson, J., & Laurenceau, J. (2006).
Mindfulness and Emotion Regulation: The Development and Initial
Validation of the Cognitive and Affective Mindfulness Scale-Revised
(CAMS-R). Journal of Psychopathology and Behavioral Assessment, 29(3),
177-190.
・Freiburg Mindfulness Inventory(FMI)
Walach, H., Buchheld, N., Buttenmuller, V., Kleinknecht, N., & Schmidt,
S. (2006). Measuring mindfulness: the Freiburg Mindfulness Inventory
(FMI). Personality and Individual Differences, 40(8), 1543-1555.

2010年7月23日金曜日

介入研究の協力者をどうやって募集するか?

今日,ある先生とお話していて,「介入研究の協力者をどうやって募集するか?」
という話題になりました。

大学で研究をやってる場合,学内に張り紙を出したりすれば,
学生さんが集まってきます。
現に,うちのラボの知覚系や認知系の人たちは,
そのようにして協力者を募っています。
では,学生でなく,一般の方を協力者として募集したいときにはどうするか。
タウン誌やHPで募集するという方法が考えられます。
確かに,Baby Scienceというか,赤ちゃんを対象にして
いろいろな実験をやる人たちは,タウン誌に広告を出したり,
研究室のホームページでも広報をされています。
実際,それが功を奏して,協力者の赤ちゃん(というか,実質はお母さん)
が,それなりの数,集まったりします。
私の知り合いも,かつてそのようにして研究をしていました。
ここで気になるのは,これと同じことが,臨床心理などの介入研究でも
できるのだろうか,ということ。
赤ちゃんを協力者にした研究だと,なんだか微笑ましいというか,
楽しそうな気がするものだし,どんなことが分かるのか,
ワクワク感があるので,広告やホームページを見たお母さんたちが
応募してくださるのだろう,と勝手に想像しています。
だけど,臨床心理などの介入研究は,こういう印象を持たれにくい
だろうから,応募してくださる方の数は少なくなるのではないかな。
さらに,臨床心理っぽい介入研究の協力者になることに関心を
持ってくださる方というのは,一般の方とは大きく異なる,
特別な層に属している気がします。
いわゆる,サンプリングバイアスの問題です。
だから,知見を一般化するのに慎重になる必要があるのかもしれない。
などと,「できない理由」を書き連ねてはいけませんね。
介入研究をやろうとされる心意気,素晴らしいと思います。
いろんな制約や問題がある中で,少しでも良質の研究をするのに,
どのような手立てをしていったらいいのか,と考えなくては。
それにしても,今の私には実体験もアイディアもありません…。
この記事をお読みの方の中で,「一般の方を対象にした介入研究で,
協力者を募集するときに自分(たち)はこのようにしましたよ」
といった体験談やノウハウをお持ちの方がいらっしゃったら,
ぜひぜひアブスト屋までお知らせください。

2010年7月14日水曜日

マインドフルネスの尺度あれこれ

マインドフルネスをテーマにして研究しようと思ったら,
マインドフルネスを測定する尺度が必要になりますよね。

じゃあ,既にどんな尺度があるんだろう?

杉浦 義典 (2009) アナログ研究の方法 新曜社
の,「マインドフルネスをめぐる多様な測定尺度」(pp.168-173)で,
2003年から2008年までに発表されたマインドフルネスのさまざまな尺度が
紹介されています。表5-2がとっても分かりやすい。
「確かに,その時期,日本心理学会の大会に行くと,マインドフルネス関係の
尺度を開発しているポスター発表がいくつかあったなあ」とか,
「これらの尺度の日本語版は出ていないのだろうか?」とか思ってみたり。
慢性疼痛に特化したものではなく,対象者は一般人口,寛解中のうつ病患者,
境界性人格障害などです。しかし,慢性疼痛でも適用可能かもしれない。
個人的には,「観察」の因子(自分の体験に注意を向けること)が,
瞑想を体験したことがない人では心理的症状と正の相関を示すが,
瞑想の訓練を経た人では負の相関が見られることが興味深かった。
瞑想を体験したことがない人と,瞑想の訓練を経た人とで,
「観察」の因子から心理的症状へ引いたパス係数の符号が異なるのかを,
同時多母集団解析で調べたらどうなるんだろう?

2010年6月30日水曜日

「強迫性障害の治療ガイド」は実に役立ちます(後編)

「強迫性障害の治療ガイド」のご紹介,前編の続きです。

セラピーを行うことでどのような変化が起きてくるのかを,
あらかじめクライエントさんに伝えます。
強迫症状が改善すると
・生活しやすくなる。
・気持ちが明るくなる。
・余裕が出る
など,「症状以外のことにもいい変化が起きますよ」と伝えていきます。
そして,ここのところこそが,クライエントさんのやる気を引き出す
ことだと思います。
ここの話になったときに,
・きらっと目を輝かせる人。
・「ああー,そうなれたらいいです!!」と首肯される人。
そういう姿を見ると,私はセラピストとして奮い立ちます。
だから,ここまで含めて説明することをいつも心がけていたい。
強調文治療中に陥りやすい考え 
苦しいことをわざわざやってもらうセラピーですから,
やらないでおこうとして,クライエントさんは
いろいろなことを言われます。
「これだけはしたくありません」
「今日は~だからできません」
あと,この本には書いてないですが,
「自分の生活に○○は必要じゃないですから」
「不便でも,○○すれば生きていけないわけじゃないですから」
っていうのもあったりします。
恐いこと,苦手なことを避けたくなるのはある意味当然です。
��だって,不安や恐怖という情動の機能は「回避」に他ならないから)
だけど,「実際に避けてもいいですよ」って認めることはしません。
例外を作って強迫症状を温存したら,そこを糸口にして再発する
ことが分かっているから。
曝露-反応妨害法に取り組む方向に話を戻していくスキルが大事
だ という気がします。
私がお世話になっている先生方は,皆さんここが
しっかりしていらっしゃいます。
私も知らず知らず,先生方に似てきたなと思います。
今日も,もっと腕を上げたいと願う,CBTアブスト屋なのでした。
��きょうのわんこ風)

2010年6月25日金曜日

今日のうれしかったこと

4年ぐらい前,ある席で一度だけご一緒したことのある方と,
ひょんなことから再び連絡が取れました。

私の方は「なんか見たことある名前だなー」と思いながら
連絡差し上げたのですが,あちらの方も私のことを覚えていて
くださって,本当にうれしかった。

そして,変わらずいいお仕事をされていることが分かって
ますますうれしかった。

この方がいらっしゃったおかげで,とても大切な知識や情報が
まとめられ,関心を持つ人たちのところに届くのだと思う。
その最新の成果を,早く手に取りたいものだ。


それから,ある先生から,興味深い実験データを送っていただいた。
じっくり読み解いてみたい。

2010年6月23日水曜日

「強迫性障害の治療ガイド」は実に役立ちます(前編)

強迫性障害のクライエントさんに手元においてもらって,
行動療法に取り組むときに活用していただく本というのは
いくつかあります。

今日ご紹介する本は,見かけは薄いけれど,中身はしっかり詰まってます。

強迫性障害の治療ガイド 飯倉 康郎 二瓶社
強迫性障害の曝露-反応妨害法に取り組むために,
クライエントさんとセラピストとが一緒に使っていく本です。
いつも活用させていただいています。
どこで役立つのか,今日はその前編です。
セラピストとして助かるのは,強迫症状が悪循環に陥る過程を
描写した図です。セラピーの経過を通して役に立ちます。
��強迫性障害の曝露-反応妨害法に興味をお持ちの方には,
ぜひ実物を見ていただきたいです)
同じような図が,九大精神科行動療法研究室のHP,
「【3】強迫観念と強迫行為のしくみ その2」
にも掲載されています。
どのように役立っているかと言えば。
まず,心理教育で役立ってます。
あの図を示して強迫性障害の仕組みを説明するとき,
クライエントさんの反応を見ていると,
「ある,ある」と首を縦に振ってくれることがしばしば。
クライエントさんの体験を内側からピタッととらえているからでしょう。
��そして,この「ある,ある」自体,イエスセットを導くことになっていて,
後の曝露-反応妨害法に取り組むことを容易にしているのでは,
などと思ってみたり)
次に,行動分析で役立ってます。
二人で一緒に図に書き込んでいくと,何に曝露し,どのような行為を
控え ればよいのかが見えてくるからです。
症状に関するクライエントさんの説明がはっきりしないことがあります。
たとえば,「洗い物がストレスで…」と繰り返し言われる場合。
こういうときには,「どれが強迫観念で,何が強迫行為か,まだうまくつかめて
いないのかもな」,と考えるようにしています。
��いくつもの症状に振り回されていっぱいいっぱいの生活をしていたら,
そうなるのも無理はないと思います。クライエントさんは悪くないです)
それがつかめるようにして差し上げるのがセラピストの務め。
そこで,この図に戻って,二人で一緒に一つずつ整理していくと,
図が描きあがったときには,
「洗い物をして,洗剤をすすいだ後に,まだ洗剤が残っている気がして,
かごに入れた食器をもう一度取り出して洗ってしまう」
といったことが見えてきます。
ここで,クライエントさんは, 自分が何を恐れ,何をしてしまっているのかが
「腑に落ちた」という 反応をされます。
ここまできたら,何に曝露し,どのような行為を控えればよいのかは
ほぼ見えてきています。
この本の後半については,後編で取り上げます。
なお,強迫性障害に悩まれる方がこの本を見ながらお一人で
曝露-反応妨害法に取り組まれるよりも,
強迫性障害の行動療法のトレーニングをきちんと経た医師や心理士と
一緒にこの本を使っていかれることをお勧めします。

「強迫性障害の治療ガイド」は実に役立ちます(後編)

強迫性障害の治療ガイド 飯倉 康郎 二瓶社
http://www.amazon.co.jp/%E5%BC%B7%E8%BF%AB%E6%80%A7%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AE%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89-%E9%A3%AF%E5%80%89-%E5%BA%B7%E9%83%8E/dp/4931199674

セラピーを行うことでどのような変化が起きてくるのか。
強迫症状が改善すると
・生活しやすくなる。
・気持ちが明るくなる。
・余裕が出る
など,症状以外のことにもいい変化が起きますよ,と伝えている。
そして,ここのところこそが,クライエントさんをやる気にさせる
ことだと思います。ここの話になったときに,目を輝かせる人,
「ああー,そうなれたらいいです!!」と首肯される人。
だから,ここまで含めて説明することをいつも心がけていたい。
治療中に陥りやすい考え 
苦しいことをわざわざやってもらうセラピーですから,
やらないでおきたいために,いろいろなことを言われます。
「これだけはしたくありません」
「今日は~だからできません」
あと,この本には書いてないですが,
「自分の生活に○○は必要じゃないですから」
「不便でも,○○すれば生きていけないわけじゃないですから」
っていうのもある。
恐いこと,苦手なことを避けたくなるのはある意味当然です。
��だって,不安や恐怖の機能は「回避」に他ならないから)
だけど,実際に避けてもいいですよ,って認めることはしない。
曝露-反応妨害法に取り組む方向に戻していくスキルが大事だ
という気がします。
私がお世話になっている先生方は,皆さんここがしっかりしている。
今日も,もっと腕を上げたいと願う,CBTアブスト屋なのでした。
��きょうのわんこ風)

2010年6月16日水曜日

文字通り,「痛みと鎮痛の基礎知識」満載のノートです

このWEBは、毎日脳細胞が死滅しつつある私のための
インターネット上のノートです。

ということですが。

できる子のノートを見せてもらってハッとしたという体験は
誰にでもあるでしょう。
私はこのノートを拝見して,ハッとしっぱなしです。

Pain Relief 痛みと鎮痛の基礎知識
文字通り,痛みと鎮痛の基礎知識が簡潔に,ふんだんに
盛り込まれています。
当ブログのリンクにも追加させていただきました。
心理的なアプローチとの関連では,
「痛みとは」の中の,さまざまな学説の変遷を取り上げている部分で
出てくる「慢性疼痛の恐怖ー回避モデル fear-avoidance model」,
すなわち,辛くて恐い痛みを避けようとすることが活動や生活空間を狭め,
慢性化へ至るという悪循環の理解こそが,慢性疼痛の認知行動療法の
出発点だと思います。
認知行動療法として提唱されている技法はいろいろあるように
思えますが,結局,上記の悪循環を弱め,患者さんに痛みに
直面していただくという目的のために,何に働きかけるか
��患者さん個人の認知なのか,行為なのか,はたまた,患者さんを
取り囲む人たちなのか)の違いなのかもしれません。
そういう目で「鎮痛法」の中の「心理療法」に書かれている
認知行動療法 ,認知療法 ,行動療法,自律訓練法,バイオフィードバック ,
森田療法,音楽療法,催眠療法,リエゾン診療などなど。

の記述を見渡してみたら,見通しがよくなった気がします。
��ああ,熱く語ってしまった…。勉強始めたばっかりなのに)
ちなみに,「注意転換法 distraction therapy」の解説では,
「三国志演義」では、華陀 (AD110-207, 後漢末の医師)は、無麻酔で関羽の手
術をしたことになっている。トリカブトの毒矢を受けた関羽の右腕を切り開き、
骨を削る手術をする。関羽は麻酔をしていないのに、手術中に、馬良を相手に平
然と碁をさしていたことになっている。しかし「三国志演義」はフィクションで
あり、正史「三国志」にはそのような記述はないそうだ。
なんて記述もあって,寄り道が楽しい。
��これを読むと,中学のとき貪り読んだ横山光輝の絵が眼前に広がります)
それから,歴史つながりで,「痛みと鎮痛の歴史年表」も楽しい。
例えば,「上海でBC5000年頃の土中から発掘された古代の鍼」をはじめとして,
紀元前から現代までの間ずっと,世界のあちこちで,痛みに関する記載が為され,
さまざまな鎮痛法が試みられてきたことが分かります。
痛みは人類にとって,(ありがたくない)お友達だったことが分かります。
そして今も,付き合っていかなくちゃいけない。
だからこのブログも存在するわけです(かなり強引?)。
まず,「痛みと鎮痛の基礎知識」で痛みと鎮痛法全般の基礎知識を身につけた後で,
昨日紹介した「文献斜め読み」で心理的介入の知識と感性を深める,という道筋で
勉強していったらいいのかもしれないな,と考えています。
作成者の小山なつ先生は,ここでまとめられたことから,
「痛みと鎮痛の基礎知識」上巻下巻を上梓されていらっしゃるようです。

2010年6月15日火曜日

Re: リンク開きませんでした・・・

「日本で,これから,慢性疼痛のマネジメントに心理士がどのような
貢献ができるか」を探ることが,このブログの目的の一つです。

患者さんの心理社会的背景に目配りすることが,心理士が持つ
大切な職能です。

特に,慢性疼痛への対応に特有の知識と技能を,心理士が身につける
必要があると考えています。

今日ご紹介するブログは,そのために大変勉強になります。

文献斜め読み
精神医学と心身医学の領域で,慢性疼痛のマネジメントに関する
日本語の論文のエッセンスを,抜粋して紹介しておられます。
当ブログで紹介しているマインドフルネス瞑想法というのは,
一定のプロトコルを複数の患者さんに適用するという性質の
セラピーです。特に,集団療法の時にはそうです。
このような,セラピーの規格化,効率化は重要な方向性です。
ただ,一方で,それぞれの患者さんの人となりやもつれた背景を
丁寧に解きほぐす視点なくしては,様々な恨み,憤り,わだかまりを
抱えた患者さんのお役には立てないだろうとも思います。
つまり,セラピーの個別化(カスタマイズ)という方向性です。
「文献斜め読み」で紹介されているのは,まさに,
この,慢性疼痛のセラピーを患者さんひとりひとりに個別化する
ために,どこを考慮に入れていったらよいか,なのです。
個人的には,Narrative-Based Medicineについて今まで勉強する
ことがほとんど無かったのですが,得るところが大きかったです。
当ブログのリンクに入れさせていただきました。

2010年6月14日月曜日

「実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35」

先輩の実体験は,これから曝露-反応妨害法に取り組もうとする
クライエントさんにとって金言です。

実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35 田村浩二 文芸社
強迫性障害に苦しむ大半の方は,曝露-反応妨害法のことをご存知ないです。
そうして,いろいろなところを回られたり,様々なことを試されたりした後で,
紹介されて私たちのところへたどり着かれます。
そこで初めて,曝露-反応妨害法について知るところとなります。
だから,セラピストの最初の目標は,クライエントさんに,
この方法がどういうことをするのかを理解していただくことと,
「自分も取り組もう」,「自分にもできるかもしれない」と
思っていただくことです。
ここで,曝露-反応妨害法に取り組んで治っていった方がいらっしゃることや,
実践された側からの実体験についてお伝えしていくと,クライエントさんは
曝露-反応妨害法に取り組む方向に一歩を踏み出していかれます。
同じ事で苦しんだ人による言葉は,言ってみれば,内側からの助言。
クライエントさんの胸に響くようです。
以下,私が「なるほど,こう言えば伝わるのか」と思った鉄則です。
「強迫行為を続けている限りは,強迫行為は治らない」
「どんなに気になっても,後戻りして現場検証をしてはならない」
「安心しようとして行う行為は,必ず新たな不安を生み出す。
 つまり,強迫観念は飛び火する」
「強迫観念を無視しても,恐れているようなことは何も起こらない」
「第三者の視点で判断し,行動すべし」などなど。
そしてやっぱり,
「これらの鉄則も,実行しなければ意味がない」。
私が担当しているクライエントさんもお一人,さっそく購入されました。
そして,セラピストも人間だから,何とかしてよくなりたいという
クライエントさんの姿によって,セラピストとしての取り組みが
強化されている部分が少なからずある気がします。

2010年6月11日金曜日

Regrettablyだそうです

3月末にある英文誌に投稿していた論文の査読結果が出ました。

Regrettably the above manuscript cannot be accepted for publication ….
ということで,リジェクトになってしまいました。
せっかく,相方と楽しい晩ご飯を食べようとしているときにメールを
送ってくるのなら,もっと吉報をもたらしてよね…。
査読のコメントを読んだところ,私が「この領域で新しくて面白い」と考えて
Introductionで導入した着眼点に対して,二人の査読者が共通して,
「この質問紙の組み合わせからは,その着眼点までは言えないのでは?」
と指摘していました。
やったことと整合するように,Introductionを書き直す必要があるのかな。
最近,他にも厳しいことがあったけれど,私の歩みをずっと見守ってくれている
方から,「ここで腐らないで,やり続けることが大事」と喝を入れてもらいました。
それを今また思い返しています。
相方は,「前に進もうとしているからこういう体験をするんだよね」と
エールを贈ってくれました。
落ち込んでいても事態は進展しない。
沢山の大切な人たちに一日も早くいいお知らせができるよう,
明日から改稿に取り組んでいこう。
こんなにタフというか,前向きになったのは人生で初めてかもしれない。
偉大なるかな,相方さん。今,隣の部屋でかわいい寝息を立てていますが。

思考抑制の基本的な枠組みをまとめておくと

こんな感じでどうでしょう。

思考抑制は,性質,および必要な注意資源の量が異なる2つのプロセスの
協同によって行われていると考えられる。
望まない思考の侵入を監視するモニタリングは,無意識裡に行われ,
注意資源を多くは使わない。
これに対して,distractionは制御的で,注意資源を多く使う。
そして,注意資源に負荷がかかる状況では,distractionが干渉されて
破綻する一方で,モニタリングが望まない思考を発見する。
そのために,望まない思考の侵入が著しくなると考えられる。
��まとめ終わり)

2010年6月10日木曜日

祝100アクセス!!

このブログを立ち上げたのが3月のことでした。
そして,本格的に記事を書き始めてちょうど1ヶ月になろうとしています。

これまで,1日平均3~5アクセスを頂いています。

そしてめでたく本日,100アクセスを達成いたしました!!
日ごろのご愛顧,感謝いたします!!
また,初めてお越しくださった方,まだまだ拙いブログではありますが,
コツコツと記事を書き溜めて,読み応えを増していきたいと思いますので,
再びのご来訪をお待ちしています。
今後,当面の間,次のような方針で情報を紹介していきます。
慢性疼痛:マインドフルネス瞑想法が疼痛や関連した変数(e.g., 破局的認知)に
及ぼす効果について調べた研究を紹介していきます。
侵入思考:Thought Control QuestionnaireとOCD,GAD,PTSD,抑うつなどとの
関連を調べた研究を軸に,時おり,思考抑制の研究についても触れていきます。
どうぞよろしくお願いいたします。

2010年6月9日水曜日

うつ病,抑うつ症状と思考抑制

今日はちょっと論文チックに,「ですます」調でなく「だ,である」調で
書いてみます。調べ物の備忘録的に。つっけんどんだったら許してください。


侵入思考やそのコントロールは,強迫性障害をはじめとした,不安障害の文脈で
語られることが多い。反面,うつ病や抑うつの文脈で語られることは少ない。

しかし,思考抑制の心理学的研究から,うつ病や抑うつにおいても,頭を悩ます
雑念があることが分かる。

思考抑制とは,ある種の考えを意識して追い出そうという意図である。代表的
な質問紙であるWhite Bear Suppression Inventoryは,思考抑制の動機と努力と
を測定している。
感情障害の患者の中で,抑うつ症状とWBSIとの間には有意な正の相関が認めらた
��Spinhoven & van der Doesa, 1999)。
健常者と比べ,うつ病の履歴がある人やリスクのある人は,WBSIの「思考抑制」
尺度の得点が有意に高かった(Wenzlaff, Rude, Taylor, Stultz, & Sweatt,
2001)。
健常者と比べ,うつ病の履歴がある人やリスクのある人は,WBSIの得点が有意に
高かった(Wenzlaff, Rude, & West, 2002; Wenzlaff, Meyer, & Salas, 2003)。
また,このブログで紹介したBellochらの研究でも,うつ病の人は,健常者と
比べ,WBSIの得点が高い。
つまり,うつ病の人は健常者と比べ,思考抑制の傾向が強いと言える。
さらに,抑うつ症状と思考抑制との関連も示されている。
Wegner & Zanakos(1994)では,大学生を対象とした調査で,
WBSIとBDIとが有意な正の相関を示した。
WBSI日本語版でも,BDIと有意な正の相関を示した(小川・藤原・木村・余語,2006)。
また,小川らとは別に,WBSIを独自に日本語訳した研究(松本,2008)でも,
やはりWBSIとSDSとが有意な正の相関を示している。
つまり,抑うつ症状が強い人ほど,思考抑制の動機や努力が強く,
そのために常時奮闘しているようである。
まとめると,うつ病者や高抑うつ傾向者は,ある種の考えを意識して追い出そう
という意図や動機が強いことが分かる。
この背景には,思考が制御困難になっていることがあるのかもしれない。
どうして,抑うつの人は雑念が多いのだろう?
考えたくないことに対して,うつ病の人や高抑うつ傾向者はどのような手段で
反応したり対処したりしているのだろう?
また,それは,当の考えたくないことに,どのような影響を及ぼしているのだろう?
といったことを,これから調べたり考えたりして,このブログに載せていきます。

Thought Control Questionnaireの開発

Wells, A., & Davies, M. I. (1994). The Thought Control Questionnaire:
A measure of individual differences in the control of unwanted thoughts.
Behaviour Research and Therapy, 32, 871-878.

先行研究から,不快で望まない思考(≒侵入思考)は
健常群,臨床群の両方で頻繁に体験されていることが示唆されている。

「侵入思考のコントロール」というときに,無視できないのが
「思考抑制」というテーマ。この思考抑制について,Wellsは

思考抑制は「考えないようにする」という目標によって定義されている。
そのため,どのような方略を用いているのかが不明である。

と述べています。そして,

どのようなコントロール方略がリバウンド効果を生むのかを明らかにするために,
様々なタイプの思考コントロール方略を測定できる質問紙を開発する必要がある。

つまり,同じ目標を追求するにしても,そのための手段(=方略)はいろいろあ
ると考えられるし,手段が違えば結果も違うのではないか,と言いたいようです。

また,そのような質問紙が開発されることで,通常の侵入思考が
どのようにして病理的な思考へ変容するのかをより詳しく調べることが
できるようになるだろう。

つまり,通常の侵入思考が病理的な思考へ変容していく過程に,
ある種の思考コントロール方略が関わっているのではないか,
という着眼点です。

不快で望まない思考に対するコントロール方略をアセスメントする質問紙である
Thought Control Questionnire(TCQ)を開発し,信頼性と妥当性を調べた。


方法と結果
質問項目を作り出すために,臨床群(強迫性障害,全般性不安障害,心気症)
計10名と健常群10名に半構造化面接を行い,望まない思考をコントロールする
方略を描写してもらった。その結果,59項目が収集された。

当初,これらの項目は理論的な観点から7つのカテゴリー
��「認知的気晴らし」, 「行動的気晴らし」,「罰」,「距離を置く/中和化」,「再評価」,
「気分を 変える」,「曝露」に分類された。

その後,項目を選択するために大学(院)生を協力者とした因子分析を二度行った。

一度目の因子分析
251名(18-25歳,男性125名,女性126名)の大学(院)生に回答を求め,因子分析に
より6因子を抽出した。
「行動的気晴らし」,「認知的気晴らし」,「社会的コントロール/保証
希求」,「心配」,「罰」,「再評価」であった。

二度目の因子分析
229名の大学(院)に回答を求めた。認知的気晴らしと行動的気晴らしが同一因子
を構成し,最終的に「気晴らし」,「社会的コントロール」,「心配」,「罰」,
「再評価」の5因子を抽出した。各因子は6項目で構成され,4件法である。

信頼性
内的整合性 αs≧.67
再検査信頼性 6週間の間隔で,rs≧.67 

妥当性
侵入思考,心理的脆弱性に関するさまざまな尺度との相関を調べた。
主な結果は以下の通り。

再評価尺度
・私的自意識と有意な正の相関。
罰尺度
・PSWQと有意な正の相関,Pauda Inventoryの思考の制御困難感と有意な正の相関。
・特性不安,神経症傾向,公的自意識と有意な正の相関。
心配尺度
・PSWQと有意な正の相関,Pauda Inventoryの思考の制御困難感とも有意な正の相関。
・特性不安,神経症傾向と有意な正の相関を示した。
今後は,このTCQを使った研究を紹介していきます。
お楽しみに!!


2010年6月8日火曜日

思考抑制の研究者WegnerのHP

思考抑制の質問紙であるWhite Bear Suppression Inventoryの開発者,
WegnerのHPです。

http://www.wjh.harvard.edu/~wegner/Home.htmlがメインのページ。
思考抑制については,
http://www.wjh.harvard.edu/~wegner/ts.htm
一連の著作がリストにされていて,論文がPDFでダウンロードできます。
助かりますね。
「侵入思考とそのコントロール」っていう研究をしようとすると,
思考抑制は重要なテーマの一つになってきます。大きなストリームだし。
そういったものの出発点となった論文に当たっておくことは研究者として重要だと思う。
後に洗練されていくアイディアが荒削りなまま書かれていたり,
意外な発見があったりするから。
「作家は処女作に向かって成熟する」って誰かが言ってたっけ。
「Back」のアイコンがシロクマなところも気が利いてる。

2010年6月5日土曜日

高齢者の腰痛に対するマインドフルネス瞑想法の効果

Morone, N.E., Greco C.M., & Weiner, D. K. (2008). Mindfulness
meditation for the treatment of chronic low back pain in older adults: A
randomized controlled pilot study. Pain, 134, 310-319.

キーワード:高齢者,腰痛,マインドフルネス,瞑想,ランダム化,比較試験

先日,「慢性疼痛のマインドフルネス心理療法を行ったら,
これら2つの尺度にどんな変化が見られるのだろうか?」

と書いていましたが,ちゃんと研究されていました。

高齢者の約1/3~1/4が腰痛に悩んでいる。
これまでのところ,若年層の慢性疼痛には
マインドフルネス瞑想法プログラムが
適用されている。
しかし,高齢者の腰痛に適用した研究はない。
マインドフルネス瞑想法プログラムに対するアドヒアランスや効果の点で,
高齢者は若年者と違いがあるかどうかを検証した。
方法
協力者:地域在住の,慢性の腰痛を持つ65歳以上の方を募集。
⇒「マインドフルネス瞑想群(8週間)」と「待機リスト群」とに無作為割付。
測度:SF-MPQ(痛みの強度),CPAQ(痛みに対する受容),SF-36(QOL),
Roland Morris Questionnaire(身体的機能)
これらを,ベースライン,プログラム終了時点,
終了から3ヶ月後のフォローアップの3つの時点で評価。
結果と考察
協力者の参加状況
マインドフルネス瞑想群 ベースライン19名
 ⇒ 8週間のプログラム終了時点で12名 ⇒ フォローアップ時12名
待機リスト群 ベースライン18名
 ⇒ 8週後で17名 ⇒ フォローアップ時13名
マインドフルネス瞑想群のアドヒアランス(平均)
 8回のクラス中,参加は平均6.7回,1週間に4.3日瞑想を行っており,
瞑想に取り組んだ時間は31.6分。
マインドフルネス瞑想群では,ベースラインと比べ,
プログラム終了時点で,SF-36の身体的機能尺度の得点,
CPAQの総得点とActivity Engagement得点が有意に高かった。
慢性腰痛の高齢者に8週間のマインドフルネス瞑想法のプログラムを提供すると,
プログラム終了時点では,痛みの強度は変化しないけれど
身体的機能が向上し,痛みを受容して必要なことをする,という変化が起きる。

ただし,3ヵ月後のフォローアップでは,マインドフルネス瞑想群とウェイトリ
スト群とで有意差は見られなかった。
フォローアップで効果が続くにはどうしたらいいんだろう?
せっかく出ている効果が弱まっていくのは残念だ。
今思いつくのは,
・プログラムの内容を変えること,
・プログラムの期間を延長すること,
・プログラム終了後にブースターセッションを設けること,だろうか。
ある心理的側面を評価する尺度を,介入の効果を調べる指標として使う
という研究の進め方。いいなあ。

2010年6月3日木曜日

「強迫性障害の行動療法」

飯倉康郎(編著)(2005). 強迫性障害の行動療法 金剛出版

読んで,実践して,また読んで。それを繰り返しながら腕を磨いています。

飯倉先生による「第1章 行動療法概論」が,強迫性障害の行動療法は
もちろんのこと,強迫性障害を題材とした行動療法全般の導入としても有用です。
それから,いつかのカンファレンスでも話題になったけれど,
強迫症状を呈していても,曝露-反応妨害法の適用になるケースかどうかを
きちんと見分けられることが大事。
ここらへんのことも,「第4章 強迫性障害の入院治療」で
しっかり書かれています。
つまり,強迫性障害の曝露-反応妨害法のトレーニングをしていく中で,
統合失調症圏かどうか,発達障害圏かどうか,うつ病から派生した
強迫症状かどうかの鑑別が課題になってくるということですね。
そして,そうした鑑別のための情報は,生育歴,現病歴,現在症を
丁寧に見ていくことで得られるものです。
そう思ってみると,強迫性障害の行動療法をしっかりと勉強することが,
強迫性障害の行動療法に留まらず,行動療法全般や,見立てのための
トレーニングに
つながっていくようです。
今日もがんばろうっと。

2010年6月2日水曜日

淡く,息の長い付き合い

先日,あるシンポジウムを聞きに出かけてきました。

3人のシンポジストの先生方のお話,どれも大変興味深くて,
「ああ,やはり研究はいいものだな」と。

シンポジウムのあとで,あるシンポジストの先生とお話をする
ことができました。
いつの間にか,臨床のスタンスのお話になっていって。
私が日ごろお会いしているクライエントさんたちの場合だと,
面接の中で丁寧に行動分析をして,これからどのようにしていくか,
私の考えをお伝えします。
特に,強迫性障害の曝露-反応妨害法ではそう。そういう面接を
定期的に繰り返していきます。
これに対して,先生が会われているクライエントさんだと,
コンタクトは年に1回ぐらいだそう。
それでもクライエントさんたちは,前回のコンタクトのことを
覚えておられる。
先生曰く,「こっちが何かしようと思って踏み込むと悪くなるからね」,
「いい状態が5年ぐらい続いて,それが定着したと言えるかなー」。
まさにリハビリという言葉がフィットする。
「介入」というのは,彼らにとっては乱暴なことなんだろう。
「関わり」という言葉でさえ,彼らにとっては踏み込みすぎなのかもしれない。
私たちが,水や空気のようなたたずまいで,淡くて息の長い付き合いを持つこと。
はっとさせられたひと時でした。
先生にはまたお会いしたいなあ。

2010年5月27日木曜日

Re: 昨日は楽しかったですね

Joormann, J., Siemer, M., & Gotlib, I. H. (2007). Mood regulation in
depression: Differential effects of distraction and recall of happy
memories on sad mood. Journal of Abnormal Psychology, 116, 484-490.



最新,というほどではないけれど,最近の研究。


大うつ病性障害の発症と維持とに,ネガティブな情動や気分を制御する能力の
障害が関わっている,という論がある。

つまり,うつ病エピソードを経験する人は,そうでない人と比べて,抑うつ気分の
程度にはちがいがないが,それを制御する能力が損なわれている,という考え方。
関係がありそうな気分制御プロセスは次の2つ。
①気分不一致検索:ネガティブな気分がポジティブな記憶材料へのアクセシビリティー
を高める。人はそれを使って抑うつ気分を制御する。
②気晴らし:認知的資源を他のことに十分に振り分けて,気分に関係した思考に
注目するのを止める。
方法
協力者:以下の3群。
・健常群(うつ病になったことがない),
・うつ病寛解群(以前うつ病になったことがあるが,現在はうつ病ではない)
⇒うつ病患者が示す気分制御の問題が,うつ病症状のひとつ(=状態)なのか,
脆弱性を持つ人たちの持続的な性質(=特性)なのかを調べるため。
・うつ病群(今現在,うつ病)。
測度:気分の評定と,BDI-Ⅱ。
気分誘導:健常群とうつ病寛解群には,悲しい映画を見せて抑うつ気分を誘導。
課題
各群の協力者は以下のどちらかの課題に取り組んだ。
・気晴らし条件:単語を使ったパズルゲーム。
・ポジティブな記憶想起条件:高校時代のポジティブな出来事を思い出してもらう。
なお,想起されたポジティブな記憶の数や,独立な評定者による記憶のポジティブさ
の評定では,3群に違いはなかった。
結果と考察
健常群:気晴らし条件でも,ポジティブな記憶想起条件でも,抑うつ気分は改善された。
うつ病寛解群:気晴らし条件では抑うつ気分が改善された。
しかし,ポジティブな記憶想起条件では,抑うつ気分に変化はなかった。
うつ病群:気晴らし条件では抑うつ気分が改善された。
一方,ポジティブな記憶想起条件では,抑うつ気分が悪化した。
結論:うつ病の人は,ポジティブな記憶を想起することはできるが,
それを使って気分を制御する能力に障害がある。
この障害は,うつ病が寛解しても続くよう。

想起されたポジティブな記憶が気分に及ぼす影響は,うつ病(歴)があるかないかで
違っている可能性がある。
うつ病の方に気晴らしを促すときには,頭の外の何かに注意を向けてもらうのがよさそう。

2010年5月26日水曜日

慢性疼痛アクセプタンス尺度(CPAQ)の妥当性確認と短縮版の開発

Fish, R. A., McGuire, B., Hogan, M., Morrison, T, G., & Stewart, I.(2010). Validation of the Chronic Pain Acceptance Questionnaire (CPAQ) in an Internet sample and development and preliminary validation of the CPAQ-8. Pain, 149, 435-443.

キーワード:慢性疼痛,受容(アクセプタンス),
慢性疼痛アクセプタンス尺度(ChronicPain Acceptance Questionnaire;CPAQ),
確証的因子分析,妥当性



「慢性疼痛に対するアクセプタンス」とは,今現在の痛みを,回避しようとしたり,
減らそうとしたり,コントロールしようとしたりせずに経験すること。

ここには2つの行動プロセスが含まれている。
①痛みがあっても,自分にとって価値ある日常活動に取り組むこと
⇒ CPAQのactivity engagement尺度(AE)。11項目。

②痛みとのコンタクトを限定しようとするのをやめること
⇒ CPAQのpain willingness尺度 (PW)。9項目。


目的
①インターネットベースの,様々な慢性疼痛が含まれるサンプルで,
確証的因子分析を使って,CPAQの妥当性を検証すること。

②CPAQの短縮版を開発して,その妥当性を検証すること。

方法
サンプル:インターネット上で回答したサンプル319名,
筆記式に回答したサンプル109名

測度:CPAQ,HADS,BPI,過去6ヶ月の医療の利用歴。

結果と考察
インターネットサンプルを対象にして確証的因子分析。
⇒ AEとPWの2つの因子が得られた。

さらに,インターネットサンプルで項目を減らして短縮版を開発。
AEとPW,ともに4項目ずつになった。 ⇒ CPAQ‐8と命名。

筆記サンプルでも短縮版の因子構造が変わらないことを確認。

CPAQ‐8の信頼性と妥当性
α係数は.77以上。
CPAQ‐8と,もとの尺度との相関は.90以上。
もとの尺度がHADS,BPIとの間で示した相関パターンと,
CPAQ‐8がHADS,BPIとの間で示した相関パターンとは類似していた。
また,AE,PWとも,高いほど,過去6ヶ月,医療を利用することが少なかった。

構造方程式モデリング
痛みの強さは,痛みによる干渉,抑うつ,不安の3つに影響を与える(Fig. 1)。
AE,PEが,これら3つの影響のどれを媒介するのかを,構造方程式モデリングで
調べた。

AE 「痛みの強さ → 痛みの干渉」,「痛みの強さ → 抑うつ」,「痛みの強さ → 不安」
の3つで媒介効果が認められた(Fig. 2)。

痛みが強いとAEは低くなる。
��痛みの強さが一定であれば)AEが高いと,痛みによる干渉,抑うつ,不安が低くなる。


PW 「痛みの強さ → 痛みの干渉」,「痛みの強さ → 不安」の2つで媒介効果 が認められた。
しかし,AEと比べてパス係数の値が小さかった。
また,「痛みの 強さ → 抑うつ」は媒介しなかった(Fig. 2)。

痛みが強いとPWは弱くなる。
��痛みの強さが一定であれば)PWが高いと,痛みによる干渉,不安が若干低くなる。

CPAQの2因子構造がインターネットサンプルで確証された。
また,CPAQ-8が計量心理学的に健全であることの予備的なエビデンスが得られた。


慢性疼痛のマインドフルネス心理療法を行ったら,これら2つの尺度にどんな変化が見られるのだろうか?

2010年5月23日日曜日

日本語で読める,慢性疼痛に対する心理的アプローチの入門書

先週,うつぶせに寝ていたら首が寝違えを起こしました。
右後ろを見ようとすると,首が痛いです。
ちょっと疼痛が身近になりました。早く治りますように…。

今日は,慢性疼痛に関する最新の英語論文ではなく, 慢性疼痛に対する心理的アプローチについて,日本語で読める入門書の紹介です。


</span><a href="http://www.amazon.co.jp/%E7%97%9B%E3%81%BF%E3%81%AE%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6%E2%80%95%E7%96%BE%E6%82%A3%E4%B8%AD%E5%BF%83%E3%81%8B%E3%82%89%E6%82%A3%E8%80%85%E4%B8%AD%E5%BF%83%E3%81%B8-%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E4%B8%B8%E7%94%B0-%E4%BF%8A%E5%BD%A6/dp/4121009355"><span style="font-size: small">丸田俊彦 (1989). 痛みの心理学 -疾患中心から患者中心へ- 中公新書</span></a><span style="font-size: small">

痛みの定義から始まり,ゲートコントロール理論,うつ病との関連,医師と患者の関係など,幅広い論点がコンパクトにまとめられています。

慢性疼痛に対する認知行動療法に関しては, 最終章で,「痛み行動」という考え方や,それへの対応に言及されています。
「痛み行動」という考え方は,慢性疼痛を,生活上の問題という大きな視点で捉える上で役立ちます。


「痛み行動」というのは,痛みがあることを周囲の人たちに伝える様々なオペラ ント行動のこと。
例えば,「痛い」と言うこと,顔をしかめること,痛いところをかばう姿勢を取ることなど,実に様々です。

痛み行動に対して,周囲の人はついつい引き込まれて過剰な世話をしてしまいます。 例えば,痛みに関するグチを延々と聞き続けるといったことです。そうすることで,痛み行動がますます著しくなっていきます。そうして,家族との間に溝ができたり,職場での立場がなくなったりといった,生活上の問題を招くことになります。

そこで,周囲の人たちが「中立的な反応」をすることを勧められます。つまり, 痛み行動を示されたときに,周囲の人たちが淡々と反応することで,痛み行動を消去していくという方針です。

もちろん,そうすることが必要であることを説明し,納得を得るということが大前提です。

しかし,痛み行動に対して周囲が中立的な反応をするというのは,言うほど簡単ではありません。分かっているのに,ついつい痛み行動に引き込まれてしまい, 「またやってしまった…」となるのが普通です。周囲の人たちはこれを繰り返しながらポイントをつかんでいくのでしょう。


絶版なのが残念ですが,amazonのマーケットプレイスで手に入るようです。
</span>


2010年5月15日土曜日

セルフエディティングに行き詰まったら

論文を書き上げていくというのは,セルフエディティングの過程に他なりません。

つまり,ひととおり書いた原稿に朱筆を入れて,誤字脱字を修正したり,こなれた表現を模索したり。
これを何度も繰り返して,原稿を磨き上げていく過程です。
私はこれを,「ひとり赤ペン先生」と呼んでいます…。

だけど,行き詰まってしまうこと,ありますよね…。

あるはずの誤字脱字を見つけ出せないとか,適切な表現になっているとは思えないけれど,
どこをどう修正したらいいのか分からないとか。

そんなときに,

・フォントを変えてプリントアウトした原稿を推敲する。
たとえば,MS明朝をMSゴシックに変えてプリントアウトした原稿を見直す。

・場所を変えて推敲する。
たとえば,いつもの自分の机を離れて,図書館で原稿を見直す。

ということをやってみると,不思議と行き詰まりを打開できることが多いです。

つまり,見逃していた誤字脱字や表記ミスが見つかったり,こなれた表現が思い浮かんだり。

もちろん,この2つを一度にやるというのもありです。

論文に限らず,長文を推敲していくときにお勧めです。お試しあれ!!

OCDと思考コントロール方略,関連があるのは?特異的なのは?

Belloch, A., Morillo, C., & Garcia-Soriano, G. (2009). Strategies to control unwanted intrusive thoughts: Which are relevant and specific in obsessive-compulsive disorder? Cognitive Therapy and Research, 33, 75-89.

キーワード:強迫性障害,侵入思考,思考コントロール方略,思考抑制,
White Bear Suppression Inventory,Thought Control Questionnaire
慢性的な思考抑制や非機能的な思考コントロール方略が,
OCDの発症と維持に重要な役割を果たしていることは,先行研究で指摘されている。
目的
・OCDに関連がある抑制法,コントロール法は何?
・OCDに特異的なのはどれ?
この2つを明らかにすること。
なお,
・OCDに関連がある(relevant)…健常群と比べてOCD群が頻繁に用いる,
・OCDに特異的(specific)…うつ病群,OCD以外の不安障害群と比べて,
OCD群だけが頻繁に用いる,
という意味らしい。
方法
協力者:OCDの患者群,うつ病群,OCD以外の不安障害群,健常群の4群。
測度:スペイン語版Thought Control Questionnaire短縮版(TCQ-r)と,
White Bear Suppression Inventoryに回答してもらった。
また,BDI,STAIも。
結果と考察
まず,OCD群内では,WBSIとTCQ-rの罰尺度とが正の相関。
⇒ OCDの患者では,侵入思考を抑制する傾向が高い人は罰方略を用いやすい。
また,WBSIと心配尺度,再評価尺度との間でも,これより弱い正の相関が。
BDI,STAIを共変量としたANCOVAで4群を比較した結果は以下の通り。
・OCD群は健常群と比べ,WBSIの得点が有意に高かった。
しかし,うつ病群,OCD以外の不安障害群とは有意差なし。
⇒ 思考抑制はOCD relevant。OCD specificではない。
・TCQ-rの罰尺度は,他の3群に比べOCD群だけが有意に高かった。
⇒ 罰方略はOCD specific,かつOCD relevant。
・TCQ-rの気晴らし尺度は,うつ病群がOCD以外の不安障害群より有意に低かった。
OCD群はうつ病群,健常群と有意差なし。
⇒ 気晴らし方略はOCD specificでもOCD relevantでもない。
・TCQ-rの再評価尺度は,OCD群がうつ病群より高かった。
が,OCD群は他の2群と有意差なし。
⇒ 再評価方略はOCD specificでもOCD relevantでもない。
・社会的コントロール,心配の2つの尺度は,4群で有意差なし。
⇒ これら2つはOCD specificでもOCD relevantでもない。

2010年5月12日水曜日

破局的認知が著しいと気晴らしの鎮痛効果が出るのが遅れる。

Campbell, C. M., Witmer, K., Simango, M., Carteret, A., Loggia M. L., Campbell, J. N., Haythornthwaite, J. A., & Edwards, R. R. (2010). Catastrophizing delays the analgesic effect of distraction. Pain, 149, 202-207.

キーワード:実験型の疼痛,行動による鎮痛,気晴らし,破局的認知,カプサイシン。

気晴らしによる鎮痛法の効果は広く認められている。
ところが,その効き目の強さには個人差があることが分かっている。
その要因は一体何だろうか?

破局的認知が著しいと痛みに対する注意が強い。ここから,筆者らは破局的認知に着目した。
方法
大学生の協力者に,次の3つのセッション(各45分)をランダムな順序で体験してもらった。
①ビデオゲームによる気晴らしだけのセッション。
②疼痛誘導(10%のカプサイシンクリームを塗布し加温措置を保持)だけのセッション。
痛みの強さを5分ごとに報告してもらった。
③疼痛誘導+ビデオゲームによる気晴らしのセッション。
気晴らしをしながら痛みの強さを5分ごとに報告してもらった。
なお,報酬を払って,ビデオゲームに没入したことを保証。
痛みを取り去った後に,Situational Catastrophizing Questionnaire(Pain Catastrophizing Questionnaireの実験状況版)の得点で,破局的認知高群と低群とに分けた。そして,この2群で,①,②,③のセッション中の痛みの
強さを,セッション序盤の15分,中盤の15分,終盤の15分に分けて比較した。
結果と考察
筆者らは,③のセッションで,破局的認知低群に比べると,高群では気晴らしの鎮痛効果が弱いだろうと予想していた。
ところが,2群に鎮痛効果の差は見出されなかった。
ただし,破局的認知低群と比べて,高群では,序盤の15分間は鎮痛効果が見られなかった。
つまり,大学生の協力者に疼痛を誘導し,ビデオゲームで気晴らしをさせると,破局的認知高群は,
最終的な気晴らしの鎮痛効果は低群と変わらないけれども,効果が出るまでに時間がかかる
ということ。
立ち上がりが悪い。
臨床群だったらどうなるんだろう?知りたい。

破局的認知と痛みへの対処の研究,今後の方向性は?

Keefe, F. J., Shelby, R. A., & Somers, T. J. (2010). Catastrophizing and pain coping: moving forward Pain, 149, 165-166

本ブログで紹介したCampbellらの論文に対して,好意的なコメントと展望とをKeefeさんが寄せている。

先行研究はクロスセクショナルなデザインで,手法は観察だった。
これに対して,Campbellらは実験法を導入した。これには次のような利点がある。
・サンプルを注意深く選択した。その結果,あり得る交絡変数(医学的障害や精神医学的障害,投薬,薬物乱用など)を除外できている。
・気晴らしの手続きは標準化され,注意深くモニターされている。
・疼痛の誘導法を工夫している。
・痛みの強さの評定が5分ごとにきめ細かく行われている。

将来の方向性
破局的認知の測度を実験の前と実験の最中でも測定するとよい。
⇒ 痛みとの連動を調べることができる。

示唆
疼痛に対する破局的認知の効果は,これまで考えられてきたよりも微妙なのかもしれない。今後の研究では,他の対処法略(e.g., イメージ,リラクセーション,自己陳述)に対して破局的認知が与える影響も調べるとよいのではないか。

臨床的示唆
破局的認知の傾向が高い人は,気晴らしの効果が出てくる前に止めてしまう可能性がある。そこで,破局的認知の傾向が高い人たちに対しては,気晴らしの効果について,粘り強くやっていると効いてくるという予期を形成する必要がある。




2010年4月18日日曜日

研究のテーマ

研究では次のことに関心を持っています。

①侵入思考と,それに対する対処方略(思考コントロール方略)を切り口とした,不安・抑うつの研究。
  • 抑うつにおける制御困難な認知(自動思考や反すう)が,抑うつ症状とどのような関連を持っているのかを明らかにすること。
  • 思考コントロール方略にはどんなものが何種類あるのかを調べること,思考コントロール方略のアセスメント法を開発すること,それぞれの対処方略が侵入思考や臨床症状に対してどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすること。
  • 思考コントロール方略の観点から,様々な不安障害(全般性不安障害,強迫性障害,PTSD),気分障害の類似点,相違点を明らかにすること。
②慢性疼痛に対する心理的アプローチ。
  • 慢性疼痛に対してマインドフルネス瞑想法がどのような効果を持っているのかを明らかにすること。
  • 慢性疼痛における破局的認知,痛みに対するコントロール信念が,疼痛や生活障害に及ぼす影響を明らかにすること。 
そこで,このブログでも,こうしたテーマに沿った研究を紹介していきます。

臨床のテーマ・関心事

臨床のテーマの一つは,制御困難な認知への対処を援助することです。

もうちょっとかみ砕いて説明しますと,

まず,「制御困難な認知」というのは,いろいろな悩みが次から次へと,頭の中に浮かんできてしまうことです。

これが著しいと,人はそれにふり回されてしまいます。そして,ふり回されてあれこれあがいてみるけれども,かえってくたびれてしまったりすることも少なくありません。

ここで,いろいろな悩み自体がすぐになくならなくても,それにふり回されることが少なくなれば,落ち着いて考えることができて,すこしはましな解決策を見つけ出すことができるのではないでしょうか。

そこで,「いろいろな悩みに振り回されてしまう」という状態から,「悩みはいろいろあるけれど,それにふり回されにくくなる」という状態になるための援助技法を開発して,役立てていけたらと願っています。

※ネット上でのカウンセリング・相談活動は行っていませんので,あしからずご了承ください。

2010年3月23日火曜日

Re: こんにちは~!

 このブログでは,不安・抑うつ,慢性疼痛の認知行動療法に関係した基礎研究,介入研究,それらのレビューやメタ分析などの 中から,近年の興味深い研究,現在の潮流の始まりとなった古典的な研究を紹介していきます。

※このブログの目的は研究の大まかな紹介です。そのため,このブログの記事は参考程度に留めて,必ず原典に当たられることをお勧めします。