2010年6月30日水曜日

「強迫性障害の治療ガイド」は実に役立ちます(後編)

「強迫性障害の治療ガイド」のご紹介,前編の続きです。

セラピーを行うことでどのような変化が起きてくるのかを,
あらかじめクライエントさんに伝えます。
強迫症状が改善すると
・生活しやすくなる。
・気持ちが明るくなる。
・余裕が出る
など,「症状以外のことにもいい変化が起きますよ」と伝えていきます。
そして,ここのところこそが,クライエントさんのやる気を引き出す
ことだと思います。
ここの話になったときに,
・きらっと目を輝かせる人。
・「ああー,そうなれたらいいです!!」と首肯される人。
そういう姿を見ると,私はセラピストとして奮い立ちます。
だから,ここまで含めて説明することをいつも心がけていたい。
強調文治療中に陥りやすい考え 
苦しいことをわざわざやってもらうセラピーですから,
やらないでおこうとして,クライエントさんは
いろいろなことを言われます。
「これだけはしたくありません」
「今日は~だからできません」
あと,この本には書いてないですが,
「自分の生活に○○は必要じゃないですから」
「不便でも,○○すれば生きていけないわけじゃないですから」
っていうのもあったりします。
恐いこと,苦手なことを避けたくなるのはある意味当然です。
��だって,不安や恐怖という情動の機能は「回避」に他ならないから)
だけど,「実際に避けてもいいですよ」って認めることはしません。
例外を作って強迫症状を温存したら,そこを糸口にして再発する
ことが分かっているから。
曝露-反応妨害法に取り組む方向に話を戻していくスキルが大事
だ という気がします。
私がお世話になっている先生方は,皆さんここが
しっかりしていらっしゃいます。
私も知らず知らず,先生方に似てきたなと思います。
今日も,もっと腕を上げたいと願う,CBTアブスト屋なのでした。
��きょうのわんこ風)

2010年6月25日金曜日

今日のうれしかったこと

4年ぐらい前,ある席で一度だけご一緒したことのある方と,
ひょんなことから再び連絡が取れました。

私の方は「なんか見たことある名前だなー」と思いながら
連絡差し上げたのですが,あちらの方も私のことを覚えていて
くださって,本当にうれしかった。

そして,変わらずいいお仕事をされていることが分かって
ますますうれしかった。

この方がいらっしゃったおかげで,とても大切な知識や情報が
まとめられ,関心を持つ人たちのところに届くのだと思う。
その最新の成果を,早く手に取りたいものだ。


それから,ある先生から,興味深い実験データを送っていただいた。
じっくり読み解いてみたい。

2010年6月23日水曜日

「強迫性障害の治療ガイド」は実に役立ちます(前編)

強迫性障害のクライエントさんに手元においてもらって,
行動療法に取り組むときに活用していただく本というのは
いくつかあります。

今日ご紹介する本は,見かけは薄いけれど,中身はしっかり詰まってます。

強迫性障害の治療ガイド 飯倉 康郎 二瓶社
強迫性障害の曝露-反応妨害法に取り組むために,
クライエントさんとセラピストとが一緒に使っていく本です。
いつも活用させていただいています。
どこで役立つのか,今日はその前編です。
セラピストとして助かるのは,強迫症状が悪循環に陥る過程を
描写した図です。セラピーの経過を通して役に立ちます。
��強迫性障害の曝露-反応妨害法に興味をお持ちの方には,
ぜひ実物を見ていただきたいです)
同じような図が,九大精神科行動療法研究室のHP,
「【3】強迫観念と強迫行為のしくみ その2」
にも掲載されています。
どのように役立っているかと言えば。
まず,心理教育で役立ってます。
あの図を示して強迫性障害の仕組みを説明するとき,
クライエントさんの反応を見ていると,
「ある,ある」と首を縦に振ってくれることがしばしば。
クライエントさんの体験を内側からピタッととらえているからでしょう。
��そして,この「ある,ある」自体,イエスセットを導くことになっていて,
後の曝露-反応妨害法に取り組むことを容易にしているのでは,
などと思ってみたり)
次に,行動分析で役立ってます。
二人で一緒に図に書き込んでいくと,何に曝露し,どのような行為を
控え ればよいのかが見えてくるからです。
症状に関するクライエントさんの説明がはっきりしないことがあります。
たとえば,「洗い物がストレスで…」と繰り返し言われる場合。
こういうときには,「どれが強迫観念で,何が強迫行為か,まだうまくつかめて
いないのかもな」,と考えるようにしています。
��いくつもの症状に振り回されていっぱいいっぱいの生活をしていたら,
そうなるのも無理はないと思います。クライエントさんは悪くないです)
それがつかめるようにして差し上げるのがセラピストの務め。
そこで,この図に戻って,二人で一緒に一つずつ整理していくと,
図が描きあがったときには,
「洗い物をして,洗剤をすすいだ後に,まだ洗剤が残っている気がして,
かごに入れた食器をもう一度取り出して洗ってしまう」
といったことが見えてきます。
ここで,クライエントさんは, 自分が何を恐れ,何をしてしまっているのかが
「腑に落ちた」という 反応をされます。
ここまできたら,何に曝露し,どのような行為を控えればよいのかは
ほぼ見えてきています。
この本の後半については,後編で取り上げます。
なお,強迫性障害に悩まれる方がこの本を見ながらお一人で
曝露-反応妨害法に取り組まれるよりも,
強迫性障害の行動療法のトレーニングをきちんと経た医師や心理士と
一緒にこの本を使っていかれることをお勧めします。

「強迫性障害の治療ガイド」は実に役立ちます(後編)

強迫性障害の治療ガイド 飯倉 康郎 二瓶社
http://www.amazon.co.jp/%E5%BC%B7%E8%BF%AB%E6%80%A7%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AE%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89-%E9%A3%AF%E5%80%89-%E5%BA%B7%E9%83%8E/dp/4931199674

セラピーを行うことでどのような変化が起きてくるのか。
強迫症状が改善すると
・生活しやすくなる。
・気持ちが明るくなる。
・余裕が出る
など,症状以外のことにもいい変化が起きますよ,と伝えている。
そして,ここのところこそが,クライエントさんをやる気にさせる
ことだと思います。ここの話になったときに,目を輝かせる人,
「ああー,そうなれたらいいです!!」と首肯される人。
だから,ここまで含めて説明することをいつも心がけていたい。
治療中に陥りやすい考え 
苦しいことをわざわざやってもらうセラピーですから,
やらないでおきたいために,いろいろなことを言われます。
「これだけはしたくありません」
「今日は~だからできません」
あと,この本には書いてないですが,
「自分の生活に○○は必要じゃないですから」
「不便でも,○○すれば生きていけないわけじゃないですから」
っていうのもある。
恐いこと,苦手なことを避けたくなるのはある意味当然です。
��だって,不安や恐怖の機能は「回避」に他ならないから)
だけど,実際に避けてもいいですよ,って認めることはしない。
曝露-反応妨害法に取り組む方向に戻していくスキルが大事だ
という気がします。
私がお世話になっている先生方は,皆さんここがしっかりしている。
今日も,もっと腕を上げたいと願う,CBTアブスト屋なのでした。
��きょうのわんこ風)

2010年6月16日水曜日

文字通り,「痛みと鎮痛の基礎知識」満載のノートです

このWEBは、毎日脳細胞が死滅しつつある私のための
インターネット上のノートです。

ということですが。

できる子のノートを見せてもらってハッとしたという体験は
誰にでもあるでしょう。
私はこのノートを拝見して,ハッとしっぱなしです。

Pain Relief 痛みと鎮痛の基礎知識
文字通り,痛みと鎮痛の基礎知識が簡潔に,ふんだんに
盛り込まれています。
当ブログのリンクにも追加させていただきました。
心理的なアプローチとの関連では,
「痛みとは」の中の,さまざまな学説の変遷を取り上げている部分で
出てくる「慢性疼痛の恐怖ー回避モデル fear-avoidance model」,
すなわち,辛くて恐い痛みを避けようとすることが活動や生活空間を狭め,
慢性化へ至るという悪循環の理解こそが,慢性疼痛の認知行動療法の
出発点だと思います。
認知行動療法として提唱されている技法はいろいろあるように
思えますが,結局,上記の悪循環を弱め,患者さんに痛みに
直面していただくという目的のために,何に働きかけるか
��患者さん個人の認知なのか,行為なのか,はたまた,患者さんを
取り囲む人たちなのか)の違いなのかもしれません。
そういう目で「鎮痛法」の中の「心理療法」に書かれている
認知行動療法 ,認知療法 ,行動療法,自律訓練法,バイオフィードバック ,
森田療法,音楽療法,催眠療法,リエゾン診療などなど。

の記述を見渡してみたら,見通しがよくなった気がします。
��ああ,熱く語ってしまった…。勉強始めたばっかりなのに)
ちなみに,「注意転換法 distraction therapy」の解説では,
「三国志演義」では、華陀 (AD110-207, 後漢末の医師)は、無麻酔で関羽の手
術をしたことになっている。トリカブトの毒矢を受けた関羽の右腕を切り開き、
骨を削る手術をする。関羽は麻酔をしていないのに、手術中に、馬良を相手に平
然と碁をさしていたことになっている。しかし「三国志演義」はフィクションで
あり、正史「三国志」にはそのような記述はないそうだ。
なんて記述もあって,寄り道が楽しい。
��これを読むと,中学のとき貪り読んだ横山光輝の絵が眼前に広がります)
それから,歴史つながりで,「痛みと鎮痛の歴史年表」も楽しい。
例えば,「上海でBC5000年頃の土中から発掘された古代の鍼」をはじめとして,
紀元前から現代までの間ずっと,世界のあちこちで,痛みに関する記載が為され,
さまざまな鎮痛法が試みられてきたことが分かります。
痛みは人類にとって,(ありがたくない)お友達だったことが分かります。
そして今も,付き合っていかなくちゃいけない。
だからこのブログも存在するわけです(かなり強引?)。
まず,「痛みと鎮痛の基礎知識」で痛みと鎮痛法全般の基礎知識を身につけた後で,
昨日紹介した「文献斜め読み」で心理的介入の知識と感性を深める,という道筋で
勉強していったらいいのかもしれないな,と考えています。
作成者の小山なつ先生は,ここでまとめられたことから,
「痛みと鎮痛の基礎知識」上巻下巻を上梓されていらっしゃるようです。

2010年6月15日火曜日

Re: リンク開きませんでした・・・

「日本で,これから,慢性疼痛のマネジメントに心理士がどのような
貢献ができるか」を探ることが,このブログの目的の一つです。

患者さんの心理社会的背景に目配りすることが,心理士が持つ
大切な職能です。

特に,慢性疼痛への対応に特有の知識と技能を,心理士が身につける
必要があると考えています。

今日ご紹介するブログは,そのために大変勉強になります。

文献斜め読み
精神医学と心身医学の領域で,慢性疼痛のマネジメントに関する
日本語の論文のエッセンスを,抜粋して紹介しておられます。
当ブログで紹介しているマインドフルネス瞑想法というのは,
一定のプロトコルを複数の患者さんに適用するという性質の
セラピーです。特に,集団療法の時にはそうです。
このような,セラピーの規格化,効率化は重要な方向性です。
ただ,一方で,それぞれの患者さんの人となりやもつれた背景を
丁寧に解きほぐす視点なくしては,様々な恨み,憤り,わだかまりを
抱えた患者さんのお役には立てないだろうとも思います。
つまり,セラピーの個別化(カスタマイズ)という方向性です。
「文献斜め読み」で紹介されているのは,まさに,
この,慢性疼痛のセラピーを患者さんひとりひとりに個別化する
ために,どこを考慮に入れていったらよいか,なのです。
個人的には,Narrative-Based Medicineについて今まで勉強する
ことがほとんど無かったのですが,得るところが大きかったです。
当ブログのリンクに入れさせていただきました。

2010年6月14日月曜日

「実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35」

先輩の実体験は,これから曝露-反応妨害法に取り組もうとする
クライエントさんにとって金言です。

実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35 田村浩二 文芸社
強迫性障害に苦しむ大半の方は,曝露-反応妨害法のことをご存知ないです。
そうして,いろいろなところを回られたり,様々なことを試されたりした後で,
紹介されて私たちのところへたどり着かれます。
そこで初めて,曝露-反応妨害法について知るところとなります。
だから,セラピストの最初の目標は,クライエントさんに,
この方法がどういうことをするのかを理解していただくことと,
「自分も取り組もう」,「自分にもできるかもしれない」と
思っていただくことです。
ここで,曝露-反応妨害法に取り組んで治っていった方がいらっしゃることや,
実践された側からの実体験についてお伝えしていくと,クライエントさんは
曝露-反応妨害法に取り組む方向に一歩を踏み出していかれます。
同じ事で苦しんだ人による言葉は,言ってみれば,内側からの助言。
クライエントさんの胸に響くようです。
以下,私が「なるほど,こう言えば伝わるのか」と思った鉄則です。
「強迫行為を続けている限りは,強迫行為は治らない」
「どんなに気になっても,後戻りして現場検証をしてはならない」
「安心しようとして行う行為は,必ず新たな不安を生み出す。
 つまり,強迫観念は飛び火する」
「強迫観念を無視しても,恐れているようなことは何も起こらない」
「第三者の視点で判断し,行動すべし」などなど。
そしてやっぱり,
「これらの鉄則も,実行しなければ意味がない」。
私が担当しているクライエントさんもお一人,さっそく購入されました。
そして,セラピストも人間だから,何とかしてよくなりたいという
クライエントさんの姿によって,セラピストとしての取り組みが
強化されている部分が少なからずある気がします。

2010年6月11日金曜日

Regrettablyだそうです

3月末にある英文誌に投稿していた論文の査読結果が出ました。

Regrettably the above manuscript cannot be accepted for publication ….
ということで,リジェクトになってしまいました。
せっかく,相方と楽しい晩ご飯を食べようとしているときにメールを
送ってくるのなら,もっと吉報をもたらしてよね…。
査読のコメントを読んだところ,私が「この領域で新しくて面白い」と考えて
Introductionで導入した着眼点に対して,二人の査読者が共通して,
「この質問紙の組み合わせからは,その着眼点までは言えないのでは?」
と指摘していました。
やったことと整合するように,Introductionを書き直す必要があるのかな。
最近,他にも厳しいことがあったけれど,私の歩みをずっと見守ってくれている
方から,「ここで腐らないで,やり続けることが大事」と喝を入れてもらいました。
それを今また思い返しています。
相方は,「前に進もうとしているからこういう体験をするんだよね」と
エールを贈ってくれました。
落ち込んでいても事態は進展しない。
沢山の大切な人たちに一日も早くいいお知らせができるよう,
明日から改稿に取り組んでいこう。
こんなにタフというか,前向きになったのは人生で初めてかもしれない。
偉大なるかな,相方さん。今,隣の部屋でかわいい寝息を立てていますが。

思考抑制の基本的な枠組みをまとめておくと

こんな感じでどうでしょう。

思考抑制は,性質,および必要な注意資源の量が異なる2つのプロセスの
協同によって行われていると考えられる。
望まない思考の侵入を監視するモニタリングは,無意識裡に行われ,
注意資源を多くは使わない。
これに対して,distractionは制御的で,注意資源を多く使う。
そして,注意資源に負荷がかかる状況では,distractionが干渉されて
破綻する一方で,モニタリングが望まない思考を発見する。
そのために,望まない思考の侵入が著しくなると考えられる。
��まとめ終わり)

2010年6月10日木曜日

祝100アクセス!!

このブログを立ち上げたのが3月のことでした。
そして,本格的に記事を書き始めてちょうど1ヶ月になろうとしています。

これまで,1日平均3~5アクセスを頂いています。

そしてめでたく本日,100アクセスを達成いたしました!!
日ごろのご愛顧,感謝いたします!!
また,初めてお越しくださった方,まだまだ拙いブログではありますが,
コツコツと記事を書き溜めて,読み応えを増していきたいと思いますので,
再びのご来訪をお待ちしています。
今後,当面の間,次のような方針で情報を紹介していきます。
慢性疼痛:マインドフルネス瞑想法が疼痛や関連した変数(e.g., 破局的認知)に
及ぼす効果について調べた研究を紹介していきます。
侵入思考:Thought Control QuestionnaireとOCD,GAD,PTSD,抑うつなどとの
関連を調べた研究を軸に,時おり,思考抑制の研究についても触れていきます。
どうぞよろしくお願いいたします。

2010年6月9日水曜日

うつ病,抑うつ症状と思考抑制

今日はちょっと論文チックに,「ですます」調でなく「だ,である」調で
書いてみます。調べ物の備忘録的に。つっけんどんだったら許してください。


侵入思考やそのコントロールは,強迫性障害をはじめとした,不安障害の文脈で
語られることが多い。反面,うつ病や抑うつの文脈で語られることは少ない。

しかし,思考抑制の心理学的研究から,うつ病や抑うつにおいても,頭を悩ます
雑念があることが分かる。

思考抑制とは,ある種の考えを意識して追い出そうという意図である。代表的
な質問紙であるWhite Bear Suppression Inventoryは,思考抑制の動機と努力と
を測定している。
感情障害の患者の中で,抑うつ症状とWBSIとの間には有意な正の相関が認めらた
��Spinhoven & van der Doesa, 1999)。
健常者と比べ,うつ病の履歴がある人やリスクのある人は,WBSIの「思考抑制」
尺度の得点が有意に高かった(Wenzlaff, Rude, Taylor, Stultz, & Sweatt,
2001)。
健常者と比べ,うつ病の履歴がある人やリスクのある人は,WBSIの得点が有意に
高かった(Wenzlaff, Rude, & West, 2002; Wenzlaff, Meyer, & Salas, 2003)。
また,このブログで紹介したBellochらの研究でも,うつ病の人は,健常者と
比べ,WBSIの得点が高い。
つまり,うつ病の人は健常者と比べ,思考抑制の傾向が強いと言える。
さらに,抑うつ症状と思考抑制との関連も示されている。
Wegner & Zanakos(1994)では,大学生を対象とした調査で,
WBSIとBDIとが有意な正の相関を示した。
WBSI日本語版でも,BDIと有意な正の相関を示した(小川・藤原・木村・余語,2006)。
また,小川らとは別に,WBSIを独自に日本語訳した研究(松本,2008)でも,
やはりWBSIとSDSとが有意な正の相関を示している。
つまり,抑うつ症状が強い人ほど,思考抑制の動機や努力が強く,
そのために常時奮闘しているようである。
まとめると,うつ病者や高抑うつ傾向者は,ある種の考えを意識して追い出そう
という意図や動機が強いことが分かる。
この背景には,思考が制御困難になっていることがあるのかもしれない。
どうして,抑うつの人は雑念が多いのだろう?
考えたくないことに対して,うつ病の人や高抑うつ傾向者はどのような手段で
反応したり対処したりしているのだろう?
また,それは,当の考えたくないことに,どのような影響を及ぼしているのだろう?
といったことを,これから調べたり考えたりして,このブログに載せていきます。

Thought Control Questionnaireの開発

Wells, A., & Davies, M. I. (1994). The Thought Control Questionnaire:
A measure of individual differences in the control of unwanted thoughts.
Behaviour Research and Therapy, 32, 871-878.

先行研究から,不快で望まない思考(≒侵入思考)は
健常群,臨床群の両方で頻繁に体験されていることが示唆されている。

「侵入思考のコントロール」というときに,無視できないのが
「思考抑制」というテーマ。この思考抑制について,Wellsは

思考抑制は「考えないようにする」という目標によって定義されている。
そのため,どのような方略を用いているのかが不明である。

と述べています。そして,

どのようなコントロール方略がリバウンド効果を生むのかを明らかにするために,
様々なタイプの思考コントロール方略を測定できる質問紙を開発する必要がある。

つまり,同じ目標を追求するにしても,そのための手段(=方略)はいろいろあ
ると考えられるし,手段が違えば結果も違うのではないか,と言いたいようです。

また,そのような質問紙が開発されることで,通常の侵入思考が
どのようにして病理的な思考へ変容するのかをより詳しく調べることが
できるようになるだろう。

つまり,通常の侵入思考が病理的な思考へ変容していく過程に,
ある種の思考コントロール方略が関わっているのではないか,
という着眼点です。

不快で望まない思考に対するコントロール方略をアセスメントする質問紙である
Thought Control Questionnire(TCQ)を開発し,信頼性と妥当性を調べた。


方法と結果
質問項目を作り出すために,臨床群(強迫性障害,全般性不安障害,心気症)
計10名と健常群10名に半構造化面接を行い,望まない思考をコントロールする
方略を描写してもらった。その結果,59項目が収集された。

当初,これらの項目は理論的な観点から7つのカテゴリー
��「認知的気晴らし」, 「行動的気晴らし」,「罰」,「距離を置く/中和化」,「再評価」,
「気分を 変える」,「曝露」に分類された。

その後,項目を選択するために大学(院)生を協力者とした因子分析を二度行った。

一度目の因子分析
251名(18-25歳,男性125名,女性126名)の大学(院)生に回答を求め,因子分析に
より6因子を抽出した。
「行動的気晴らし」,「認知的気晴らし」,「社会的コントロール/保証
希求」,「心配」,「罰」,「再評価」であった。

二度目の因子分析
229名の大学(院)に回答を求めた。認知的気晴らしと行動的気晴らしが同一因子
を構成し,最終的に「気晴らし」,「社会的コントロール」,「心配」,「罰」,
「再評価」の5因子を抽出した。各因子は6項目で構成され,4件法である。

信頼性
内的整合性 αs≧.67
再検査信頼性 6週間の間隔で,rs≧.67 

妥当性
侵入思考,心理的脆弱性に関するさまざまな尺度との相関を調べた。
主な結果は以下の通り。

再評価尺度
・私的自意識と有意な正の相関。
罰尺度
・PSWQと有意な正の相関,Pauda Inventoryの思考の制御困難感と有意な正の相関。
・特性不安,神経症傾向,公的自意識と有意な正の相関。
心配尺度
・PSWQと有意な正の相関,Pauda Inventoryの思考の制御困難感とも有意な正の相関。
・特性不安,神経症傾向と有意な正の相関を示した。
今後は,このTCQを使った研究を紹介していきます。
お楽しみに!!


2010年6月8日火曜日

思考抑制の研究者WegnerのHP

思考抑制の質問紙であるWhite Bear Suppression Inventoryの開発者,
WegnerのHPです。

http://www.wjh.harvard.edu/~wegner/Home.htmlがメインのページ。
思考抑制については,
http://www.wjh.harvard.edu/~wegner/ts.htm
一連の著作がリストにされていて,論文がPDFでダウンロードできます。
助かりますね。
「侵入思考とそのコントロール」っていう研究をしようとすると,
思考抑制は重要なテーマの一つになってきます。大きなストリームだし。
そういったものの出発点となった論文に当たっておくことは研究者として重要だと思う。
後に洗練されていくアイディアが荒削りなまま書かれていたり,
意外な発見があったりするから。
「作家は処女作に向かって成熟する」って誰かが言ってたっけ。
「Back」のアイコンがシロクマなところも気が利いてる。

2010年6月5日土曜日

高齢者の腰痛に対するマインドフルネス瞑想法の効果

Morone, N.E., Greco C.M., & Weiner, D. K. (2008). Mindfulness
meditation for the treatment of chronic low back pain in older adults: A
randomized controlled pilot study. Pain, 134, 310-319.

キーワード:高齢者,腰痛,マインドフルネス,瞑想,ランダム化,比較試験

先日,「慢性疼痛のマインドフルネス心理療法を行ったら,
これら2つの尺度にどんな変化が見られるのだろうか?」

と書いていましたが,ちゃんと研究されていました。

高齢者の約1/3~1/4が腰痛に悩んでいる。
これまでのところ,若年層の慢性疼痛には
マインドフルネス瞑想法プログラムが
適用されている。
しかし,高齢者の腰痛に適用した研究はない。
マインドフルネス瞑想法プログラムに対するアドヒアランスや効果の点で,
高齢者は若年者と違いがあるかどうかを検証した。
方法
協力者:地域在住の,慢性の腰痛を持つ65歳以上の方を募集。
⇒「マインドフルネス瞑想群(8週間)」と「待機リスト群」とに無作為割付。
測度:SF-MPQ(痛みの強度),CPAQ(痛みに対する受容),SF-36(QOL),
Roland Morris Questionnaire(身体的機能)
これらを,ベースライン,プログラム終了時点,
終了から3ヶ月後のフォローアップの3つの時点で評価。
結果と考察
協力者の参加状況
マインドフルネス瞑想群 ベースライン19名
 ⇒ 8週間のプログラム終了時点で12名 ⇒ フォローアップ時12名
待機リスト群 ベースライン18名
 ⇒ 8週後で17名 ⇒ フォローアップ時13名
マインドフルネス瞑想群のアドヒアランス(平均)
 8回のクラス中,参加は平均6.7回,1週間に4.3日瞑想を行っており,
瞑想に取り組んだ時間は31.6分。
マインドフルネス瞑想群では,ベースラインと比べ,
プログラム終了時点で,SF-36の身体的機能尺度の得点,
CPAQの総得点とActivity Engagement得点が有意に高かった。
慢性腰痛の高齢者に8週間のマインドフルネス瞑想法のプログラムを提供すると,
プログラム終了時点では,痛みの強度は変化しないけれど
身体的機能が向上し,痛みを受容して必要なことをする,という変化が起きる。

ただし,3ヵ月後のフォローアップでは,マインドフルネス瞑想群とウェイトリ
スト群とで有意差は見られなかった。
フォローアップで効果が続くにはどうしたらいいんだろう?
せっかく出ている効果が弱まっていくのは残念だ。
今思いつくのは,
・プログラムの内容を変えること,
・プログラムの期間を延長すること,
・プログラム終了後にブースターセッションを設けること,だろうか。
ある心理的側面を評価する尺度を,介入の効果を調べる指標として使う
という研究の進め方。いいなあ。

2010年6月3日木曜日

「強迫性障害の行動療法」

飯倉康郎(編著)(2005). 強迫性障害の行動療法 金剛出版

読んで,実践して,また読んで。それを繰り返しながら腕を磨いています。

飯倉先生による「第1章 行動療法概論」が,強迫性障害の行動療法は
もちろんのこと,強迫性障害を題材とした行動療法全般の導入としても有用です。
それから,いつかのカンファレンスでも話題になったけれど,
強迫症状を呈していても,曝露-反応妨害法の適用になるケースかどうかを
きちんと見分けられることが大事。
ここらへんのことも,「第4章 強迫性障害の入院治療」で
しっかり書かれています。
つまり,強迫性障害の曝露-反応妨害法のトレーニングをしていく中で,
統合失調症圏かどうか,発達障害圏かどうか,うつ病から派生した
強迫症状かどうかの鑑別が課題になってくるということですね。
そして,そうした鑑別のための情報は,生育歴,現病歴,現在症を
丁寧に見ていくことで得られるものです。
そう思ってみると,強迫性障害の行動療法をしっかりと勉強することが,
強迫性障害の行動療法に留まらず,行動療法全般や,見立てのための
トレーニングに
つながっていくようです。
今日もがんばろうっと。

2010年6月2日水曜日

淡く,息の長い付き合い

先日,あるシンポジウムを聞きに出かけてきました。

3人のシンポジストの先生方のお話,どれも大変興味深くて,
「ああ,やはり研究はいいものだな」と。

シンポジウムのあとで,あるシンポジストの先生とお話をする
ことができました。
いつの間にか,臨床のスタンスのお話になっていって。
私が日ごろお会いしているクライエントさんたちの場合だと,
面接の中で丁寧に行動分析をして,これからどのようにしていくか,
私の考えをお伝えします。
特に,強迫性障害の曝露-反応妨害法ではそう。そういう面接を
定期的に繰り返していきます。
これに対して,先生が会われているクライエントさんだと,
コンタクトは年に1回ぐらいだそう。
それでもクライエントさんたちは,前回のコンタクトのことを
覚えておられる。
先生曰く,「こっちが何かしようと思って踏み込むと悪くなるからね」,
「いい状態が5年ぐらい続いて,それが定着したと言えるかなー」。
まさにリハビリという言葉がフィットする。
「介入」というのは,彼らにとっては乱暴なことなんだろう。
「関わり」という言葉でさえ,彼らにとっては踏み込みすぎなのかもしれない。
私たちが,水や空気のようなたたずまいで,淡くて息の長い付き合いを持つこと。
はっとさせられたひと時でした。
先生にはまたお会いしたいなあ。