講義からのスピンオフです。
「臨床心理学(概論)」では,質問紙法の回で,Rosenbergの「自尊感情尺度」に回答してもらってから,質問紙法について説明するようにしています。当然ですが,受講者ひとりひとりに尺度得点が算出されます。そうして,受講者は,平均点が何点だったか気になるわけです。
平均点と比べて自分が高かった(あるいは低かった)と一喜一憂することはあり得ますが,それだけじゃつまらない。そこで調べてみました。
日本では,Rosenbergの「自尊感情尺度」に対して,いろいろな時代に,老若男女が回答した研究が,学会発表や論文として数多く発表されています。それらの結果が,小塩先生らのグループがメタ分析によってまとめられ,「平均値」について,興味深いことが分かっています。
なお,研究によって,5件法(得点範囲1-5)だけでなく4件法(得点範囲1-4)があったり,得点の計算法,項目数が違っていたことから,尺度全体の得点ではなく,「1項目あたりの平均値」を取り上げ,すべての研究を5件法に変換してから(5点満点だったら何点か)分析に用いたとのことです。
まず,「いろいろな時代に」と,「老若」との関係から:小塩ほか(2014)は,1980年から2013年までに日本で刊行された査読誌に掲載された論文のうち,123の発表や論文から256個の平均値を抽出したそうです(全サンプルサイズは48,927名)。その結果,
(a)5件法で答えてもらった場合,他の件法よりも平均値が高い。
(b)同じ時期なら,大学生と比べ,中高生の平均点は低く,成人や高齢者の平均点は高い。
(c)調査した時代が最近になるほど,自尊感情の平均値は下がる。中高生と成人では時代が最近になるほど直線的に下がってくるのに対して,大学生では、1990年代までは上がり、その後現在にかけて下がってくる(Uを逆さにしたようなかたちのグラフになる)。
ここで,一番最近の平均値を見ると,大学生は3点強。私の講義で使ったバージョンは5件法10項目だったことから,「合計得点÷10」が3点強なら平均ということでしょうか。
ちなみに,調査した時代が最近になるほど,アメリカでは自尊感情の平均値は上がっていて,中国では,日本と同じように下がっているのだそうです。
さらに,「いろいろな時代に」と,「男女差」について:岡田ほか(2015)は,1980年1月から2014年3月に刊行された日本の査読誌に掲載された論文から,Rosenbergの自尊感情尺度の性差を調べた50の研究に対してメタ分析を行っています(サンプルサイズは18,603名(男性8,594名,女性10,009名)。その結果,
(a)全体では、女性よりも男性の平均値のほうが少しだけ高い。
(b)中高生から成人にかけて男女差が小さくなり,高齢者で再びやや大きくなる。
文献を徹底的に検索し,収集された労力に敬意を表します。同じツールを長年に渡って使い続けることで,このような傾向が見えてくるのですね。
引用文献
小塩 真司・岡田 涼・茂垣 まどか・並川 努・脇田 貴文 (2014). 自尊感情平均値に及ぼす年齢と調査年の影響—Rosenberg の自尊感情尺度日本語版のメタ分析—. 教育心理学研究, 62, 273–282.
岡田 涼・小塩 真司・茂垣 まどか・脇田 貴文・並川 努 (2015). 日本人における自尊感情の性差に関するメタ分析. パーソナリティ研究, 24(1), 49–60.
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