2020年,コロナ禍でオンライン講義となり,配信形態が変化したことで,自分の講義の内容や説明の仕方を大きく変えざるを得ませんでした。2021年は,それを自分なりの講義のスタイルへと定着させる1年でした。
本務校の講義について
前期に担当した「心理学」(1年生対象)では,テーマは身近なもの,学生が関心を抱きやすいものから出発して,それを扱う理論,手法(実験なり調査なり)を取り上げて解説してました。大きく,「発達」,「認知」,「学習」,「社会」の4つの心理学の概説です。
「発達」は愛着から入ると関心を持ってくれます。ストレンジシチュエーションを説明しました。
「認知」は記憶の分類がメインですが,「記憶にたくさんの種類があることを初めて知った」という感想が多く出ました。少し応用的な話として,事後情報効果や偽りの記憶,記銘方略なども取り上げました。
「学習」は,レスポンデントとオペラント,観察学習の3本柱ですが,レスポンデントは印象や好き嫌い,オペラントは物事が続く(続かない)理由とつながっていると述べました。
「社会」は,大学生ですから恋愛,医療系ですから援助行動を取り上げました。
最終回では「心理学の研究法」と題し,「測定」(目に見えない「こころ」を目に見える数字の世界に連れてこよう),「観察」,「実験」(因果関係を言うには独立変数の操作,統制群が必要だよね),「調査」(実験できないときにどうする?)といった話をしています。14回までに代表的な研究事例を紹介していますので,それらを振り返ると説明しやすいです。
心理学の先人たちの苦闘をなぞりながら,1年生たちに「そんな考え方があるんだ」と思わせて揺さぶり,自分や身のまわりを新しい目で見直してほしい,心理学の学問としての面白さを伝えたいということを,隠れた目的にしました。講義アンケートに「出てくる例が分かりやすかった」,「前期で一番楽しい講義だった」と記してくれた受講生もいました。目論見は成功したと思います。
「臨床心理学」や「臨床心理学(概論)」といった,臨床心理学関連の講義を,患者さんの前に出る職種のタマゴたちに教えています。彼がが将来働く場所には,心理職がいるでしょう。心理職がどのようなことをするのかを知っておいてもらうと,いいチームが組めて,クライエントさんのためになるのではないか,という思いでやっています。
最初に心理職の5つの職域を紹介しますが,日本社会の様々な場所にいることが意外だという反応です。
アセスメント法は,「面接法」,「観察法」,「質問紙法」,「投影法」,「知能検査・発達検査」に分けて説明しました。
援助法は,「精神分析療法」,「行動療法」,「来談者中心療法」,「認知療法」と,歴史に登場した順にお話していきます。その上で,「家族療法」や「集団療法」といった,複数の人を対象にしたもの,「芸術療法・遊戯療法」といった非言語的なもの,「森田療法・内観療法」といった和製のものにも触れます。
医療系の学生さんが対象ですので,身体疾患と併存しやすい抑うつが,患者さんの治療アドヒアランスを弱めることを指摘し,そこに抑うつに働きかける方法を紹介しました。また,心理療法の効果研究としてRCTにも触れています。
人のお世話をする者としての心構えや,実際の支援の様子などをときどき織り込んで説明しました。多種多様なアセスメント法や支援法があることに驚くようです。
講義の進め方
せっかく教科書を購入してもらいますので,活用しました。説明するページをパワーポイントに取り込み,重要箇所に赤で下線を引いたり,グラフのポイントを簡潔に書き込んだりしておきます。それを講義で解説します。その上で,教科書から踏み込んだ内容を,パワーポイントで自作した教材で解説します。
講義後に5点前後の小テストをGoogle Classroomを使って出題し,翌日には個人の点数と正解を返却します。この小テストによって,講義の直後に,ごく手短ですが復習の機会を持ってもらっています。さらに,小テストの問題を使って,定期試験の準備をする人もいるようです。今の学生さんは勤勉なので,教師として励まされます。
「認知行動療法特論」の集中講義
2年に1回お引き受けしている九州産業大学大学院の「認知行動療法特論」,今回はコマシラバスを作って臨みました。私が受講生に何を伝えるかを,1コマずつ詳しく書き出したものです。これを作成する過程の中で,理解が曖昧だったり誤っていたりする箇所が見えてきて,文献を集めて読みました。結果として,私の,認知行動療法の語り方の中間決算ができました。中間決算なので,まだまだ変化する予定ですが。
来年度に向けて
現在,来年度に向けて「心理学」と「臨床心理学(概論)」のコマシラバスを作成中です。
研究
4月には科研費が取れていました。前に進めていかないと。
あいかわらず思考コントロール方略の研究をしています。セルフコンパッションとの関連を調べてみました。そこから新しい仮説が湧いてきたので,現在調査の準備中です。2022年の日心で発表する計画です。
参考文献
芦田宏直. (2019). シラバス論: 大学の時代と時間、あるいは〈知識〉の死と再生について. 晶文社.
0 件のコメント:
コメントを投稿