うつ病と強迫性障害とがcomorbidしている場合,どっちから取り組むか,
注意が必要です。
ちなみに,うつ病から強迫症状が派生した場合と,強迫性障害からうつ病が
生じる場合という,2つの場合があり得ます。
うつ病から派生した強迫症状の場合。
確認強迫を例にして説明しますと,
「私は頭が悪いので,書き間違いをしているのではないかと思って…」と,
確認する理由に,自分(の能力)を卑下する雰囲気が混じります。
これに対して,うつ病から派生したのではない,通常の強迫性障害の場合だと,
確認をする理由は,他者への迷惑を危惧することです。
「もしも書き間違いをしていたら,会社に大損害を与えるので…」。
もちろん,うつ病の場合でも,こうした迷惑の雰囲気があることも
あるのですが…。
強迫症状がうつ病から派生したものである場合,うつ病が治れば,
それに伴い強迫症状もよくなります。だから,まずはうつ病のセラピーを行います。
一方,強迫性障害から派生したうつ病の場合,
OCDが悪化していくと,症状に圧迫されて生活が不便になっていきます。
例えば,外出しづらくなったり,仕事辞めないといけなかったり。
それに伴ってうつ病になっていかれます。
この場合も,最初に行うのはうつ病のセラピー。
その理由は,理論的な観点と,実際上の観点と,二つあります。
まず,理論的な観点。
抑うつ気分を伴ったままでは,不安喚起刺激に対して曝露をしても馴化が起きない。
これについてFoaがemotionalprocessing of fearという論文で理論化しています。
この論文はまた紹介したいと思います。
そして,実際上の観点。
曝露-反応妨害法は,ある程度まとまった期間,患者さんの頑張りが必要。
患者さん自身に効果が実感できるまで,ちゃんとやっても2-3ヶ月かかります。
しかし,うつ病でエネルギーがないと,これは続けられません。
病歴を取る場合には,うつ病が先か,強迫症状が先かを見極めることが重要。
私は,「何回も確認するようになったのと,気分が落ち込んで何もする気が
なくなったのと,どっちが先でしたか?」と,必ず尋ねるようにしています。
以上,うつ病と強迫性障害がcomorbidしている場合には,まずうつ病に取り組むのが定石。
それで,うつ病が治った後に強迫症状が残っていたら,それにたいしては曝露-反応妨害法を。
と私は習いました。